質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
ある乳がんサバイバーにおける対話の意義
Aさんのライフヒストリーを通じた考察
日高 直保
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2021 年 20 巻 Special 号 p. S66-S73

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抄録

本研究は,対話が乳がんサバイバーにどのような変化をもたらしうるか明らかにすることを目的とした。個別性 を損なわず事象を理解するべく,本研究では一事例分析を行った。具体的には,50 歳代で乳がんに罹患し,対 話カフェに参加していたがんサバイバー1 名にインタビューを行い,ライフヒストリー法を用いてその経験を記 述した。インタビューからは,がんに罹患したことで生活における危機に直面し,自らの生き方を再考すること を余儀なくされながらも,対話を通じ自身の考えや行為の幅を広げ,新しい人生を歩み始めたがんサバイバーの 姿が描き出された。ライフヒストリーをふまえた考察では,対話を行うことが,参加した乳がんサバイバーに考 えや行為の広がり,および自分自身やがんによって生じた変化への『ゆるし』をもたらすことを指摘した。また, 対話カフェをはじめとする対話の場が,乳がんサバイバーが新しい生き方を模索し,実現していく一助となる可 能性も示唆された。

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© 2021 日本質的心理学会
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