抄録
近年,大量退職,職員の年齢の不均衡などの要因により,若手教師の養成が課題となっている。また,「働き方改革」の課題である教師の多忙化により,バーンアウトしてしまう教師もいる。こうした問題に対し,教師が職場で教室以外に主に過ごす職員室における教師のメンタリングについて詳細に描写し分析することは,若手教師の養成の方略を明らかにし,教師のメンタルヘルスの問題を解決する上で,有用な役割を果たすと考えられる。しかしながら,職員室における教師のメンタリングの研究の蓄積は不十分である。そこで本研究の目的は,職員室におけるメンタリングに焦点を当て,質的な分析を行った上で,教師の自発的なメンタリングが成立する要因,条件を明らかにすることである。分析の結果,職員室で教師は,切実な生徒・保護者への思い・責任感,教師・教職への魅力・憧れを動機づけとし,同僚の教師とさまざまな情報交換を行い結びつきを強めていた。その上で教師たちは,メンターとメンティの間で互恵的な発達支援関係を築き,自発的なメンタリングを行っていた。教師たちの情報交換はミドルリーダーなど効果的な人的配置と机の配置や机上の本棚の置き方などの物理的環境の工夫によって促進されていることが示唆された。今後,職員室での効果的な人的配置や物理的な環境・レイアウトの工夫に着目することにより,教師のメンタリングの意欲や主体性が高まることが期待される。