抄録
本研究は,女性バイセクシュアル当事者同士の語り合いを通して,女性バイセクシュアルを生きる体験を概観しつつ,その中で抱え得る心理的葛藤を明らかにすることで,今後の心理支援に役立つ知見を得ることを試みたものである。女性バイセクシュアルであると自認している当事者2名と第一筆者が複数回にわたる「語り合い」を行い,分析においてはメタ観察を援用し,語る内容と語り合う行為の両方に注目して考察を行った。その結果,異性愛主義社会と性的マイノリティ社会(特にレズビアンコミュニティ)の両方から受け入れてもらえない「孤独を生きる」体験が浮かび上がってきた。また,この「孤独を生きる」体験は,当事者達が一度受け入れたはずの自分のセクシュアリティを肯定的に受け入れることを妨げ,女性バイセクシュアルという性的アイデンティティの揺らぎにつながっていた。その点から,女性バイセクシュアルというありのままの自分を受け入れてもらえる体験は,当事者達自身の肯定的な自己受容を可能にし,精神的健康の維持だけでなく,女性バイセクシュアルを生きる体験そのものをより豊かにすることにつながると考えられた。