質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
子宮頸がん・転移性肺がんとともに生きる経験
抗がん剤治療を続ける身体とその物語
細野 知子鷹田 佳典
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2023 年 22 巻 1 号 p. 352-368

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抄録
本稿は子宮頸がん・転移性肺がんの抗がん剤治療を続ける女性の語りを手がかりに,その病いの経験の動的な諸様相を記述することを目的とする。原山さんというその女性の物語においては,「身体」が主要なトピックとなっていた。がんへの罹患や抗がん剤治療によって変わりゆく身体に言及しつつも,原山さんはセルフケアを通じて治療が継続できる身体を維持することに努めていた。また,ラテン音楽を楽しむ日常も,細やかな身体描写とともに語りだされていた。本稿ではこうした原山さんの経験を下支えする身体を現象学的に記述した。続いて本稿では,原山さんの身体経験と物語の関係を,アーサー・フランクの物語論に依拠して分析的に記述した。フランクが提示する四つの身体類型を手がかりとしつつ,原山さんの身体-自己が一つの類型に収まらない多面性を有していることを明らかにした。さらに,回復の物語や探求の物語を基調として展開されていた原山さんの病いの物語が,インタビュー終盤に転調した点に着目し,そこに身体を通して語られる物語を読み取ろうと試みた。この語りから原山さんの病いをいかに記述し,この動的な経験に肉薄した理解ができるか。研究方法を探究した末に行き着いた病いの経験の複合的な記述により,誰もががんサバイバーになりうる現代社会に,抗がん剤治療を受け生きることを理解する視点が提供された。
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© 2023 日本質的心理学会
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