質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
ガラス工芸の復活を通じた世代間の関係性構築の語り
ナラティヴ・アプローチから捉える新たな制作物の開発過程
竹内 一真 
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2023 年 22 巻 1 号 p. 332-351

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抄録
近年,地域に伝わる固有の伝統工芸が復活するという現象が起こっている。一方で,復活する際にどのように当事者が不在の先行世代と関係を築き,時代に合った新たな制作物を生み出しているのかという世代間の関係性構築に関して十分に研究されていない。本稿では,一度は途絶えたが復活を果たした技能に関して,ナラティヴ・アプローチを通じて新たな制作物の開発に至るまでの過程を捉える。本稿において研究協力を依頼したのが,各地域においてガラス工芸の復活に関して中心的に携わった3名の当事者である。調査では各研究協力者にライフストーリーインタビューを実施した。その結果,二つのことが示された。一つ目が,継承リテラシーの獲得過程である。復活を行う当事者は当該技能の習熟と先行世代との内的対話を通じて継承リテラシーを深める。そして,継承リテラシーの深まりとともに,先行世代との関係性が構築されることが示された。二つ目は,新たな制作物作成過程を物語的自己同一性の観点から捉えることである。作り手は受け手と先行世代の間に自らの経験を媒介させる形で新たな制作物を作る。その過程で,制作物の物語的自己同一性を代替的に再構築することが示された。
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© 2023 日本質的心理学会
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