抄録
本研究では,ライフストーリーの記述を通じ,不妊治療を行わない選択をした女性の経験を詳細に描き出すことで,不妊に関する可視化されにくい声を可視化し,社会において支配的なストーリーとは異なる生き方の可能性を提示することを目指した。具体的には,子宮内膜症を患い,不妊の可能性を認識しながらも不妊治療を行わない選択をした女性1 名にインタビューを行い,得られた語りをもとに,ライフストーリーの記述と考察を行った。語りからは,何かを「育む」ことを独自に実現しながら,「子どもを産めないかもしれない」可能性を「受け入れ」つつ,「子どもどうする」という問いについて「考え続け」る姿が描き出された。そして,不妊に関する可能性の「受け入れ」は,長いスパンという時間性を持ち,経験への意味づけという行為と,子育てに関わるうれしさの発見という,感情的な側面を含んだ経験であると考えられた。また考察では,「生成継承性」の発揮および実現が,不妊治療に際する意思決定や,不妊に関する可能性の「受け入れ」の一因になりえることを示した。次いで,本研究で得られた知見が,不妊に悩む当事者への支援に資する可能性について言及した。