質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
労働災害に被災したタイ人の生活再建をめぐるライフストーリー
信仰と労働に着目して
岩下 夏岐佐川 佳南枝
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2025 年 24 巻 1 号 p. 102-123

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抄録
本研究の目的は,労働災害に被災したタイ人の研究協力者の語りから,労働災害によって後遺症を有するという経験が,どう解釈され,いかなる生活再建がなされたのか明らかにすることである。特に彼らの語りから頻出した信仰と労働に着目して,直面する経済状況,宗教儀礼への参加や障害の捉え方,そして経験的意味世界に視野を広げて,当事者が望む生活再建の姿とはいかなるものかについて考察した。研究方法について,タイ東部にある労働災害被災者のためのリハビリテーションセンターに入所経験のあるタイ人で,協力の得られた男性8名,女性2名に半構造化面接を行った。この音声データと調査中に収集,記録した二次資料を分析対象に含めた。分析に際しては,分析視点として時間的,伝記的,因果的,主題的という4つの一貫性を参考にした。また本研究におけるモデル生成への志向性,および研究協力者の信仰や障害,生活に関する認識についてリアルに伝えることができる手法として方法論を検討し,モデル生成の部分ではM-GTAを援用しつつ,ライフストーリー分析を行うという折衷的手法を採用した。結果,研究協力者は労働災害に起因する様々な苦悩や不利益に信仰をもって対処する側面が認められた。また後遺症という身体変化以上に,それによって直面する経済的困窮や仕送りが出来ないといった家での役割喪失の危機に対して,より問題であると感じていた。
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© 2025 日本質的心理学会
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