抄録
本研究は筆者の体験,長年にわたる原因不明の難聴が内耳の希少疾患によると判明し,人工内耳を装用し障害のある研究者となるまでをオートエスノグラフィで記述し,複線径路等至性アプローチ(TEA)によって整理・分析した。重要な分岐点によって体験を7つの区分に分けた。具体的には,①難聴による障害が認識も共有もされない「障害の『不在』」期,②難聴による障害が「少しずつ認識」された時期,③難聴による障害が「本格的に認識」された時期,④障害認識が曖昧な「中途半端な対処」期,⑤難聴に「直面せざるを得なくなる」期,⑥障害が共有される「『障害者』となる」期,⑦障害の共有が促進された「人工内耳者」期に分けられた。それぞれの特徴について述べるとともに,TEAによる分析結果を元に難聴における障害の共有の有り様を考察した。具体的には,「障害の『不在』」の段階,障害の「不明確な表出」の段階,障害の「不安定な共有」の段階,障害の「明確な共有」の段階のそれぞれについて述べた。最後に本研究の結果に基づき難聴者支援について考察した。