抄録
本研究は,治療文化の変遷という側面から,外来文化と土着文化の相互作用に注目したものである。これまでの研究では文化間の境界線を想定し,心理療法のローカライゼーションがトップダウン的に設計されているという視点が重視されてきた。それに対して,本研究は文化間の交流を重視し,ボトムアップで自然発生という側面から,ローカライゼーションの事例を追いながら,その成立条件を探索した。具体的には,フィールドとして中国東北地域にある心理援助機関を選定し,オンライン参加観察の方法でデータを収集し,グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。その結果当該機関で使われている心理療法が扱う問題の範囲,問題に対する解釈,解釈に基づく治療法,その効果という点における特殊性が明らかになった。さらに中国東北地域に既存の治療文化と比較し,それがいかに変遷したかを描き出すプロセスモデルを提起した。最終的に,農村部におけるメンタルヘルスシステムの構築に向けての具体的な提案を行った。