質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
〈できる〉ようになるということの現象学的研究
発症から17年経過した脳卒中者の経験
藤原 瑞穂
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2025 年 24 巻 1 号 p. 246-259

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抄録
本研究の目的は,脳卒中者の〈できる〉ようになることが,日常生活のなかでどのように立ち現れ,経験されているかを記述することである。 研究協力者は夫と二人で暮らしている80代の女性で,60代で脳卒中を発症し,右片麻痺となった。右手は麻痺のためにまったく動かなかったが,発症から17年経過し,ほとんどの家事を左手で行っていた。研究方法は,現象学的質的研究を援用した。非構造化面接を2回実施し,得られたテクストを繰り返し読み,語りに現れる脳卒中者の視点の動きと時の流れを追った。そして〈できる〉ようになることについて語りから浮かび上がってくるテーマをその関連性とともに全体的な構造として記述した。分析の結果,〈できる〉ようになるということは,【全廃のなかの可能性】【不自由さに慣れる】という脳卒中との「おつきあい」の仕方に関する2つのテーマを基盤とし,【〈できない〉ことからの分節化】【「ほんと」の自分が立ち現れる喜び】【「工夫」の生成と定着】【「忍耐」に寄り添う他者と「辛抱」できない他者】という4つのテーマによって構成されていた。〈できる〉ようになることに寄り添う他者との共同性について,ハイデガーの顧慮の視点から考察を加えた。
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© 2025 日本質的心理学会
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