抄録
本論文は引退後の進路が白紙であった 2 人の元プロ野球選手の語りから,どのように彼らが引退を語るのか,その類型を明らかにした。面接で得た彼らの語りは,引退から 5 年間が経過した元選手の自己物語である。分析の結果,①プロ野球選手になるまでが克明に語られ,現役時代については,ほとんど語られなかった。②「プロ野球選手になりたいわけではなかったが,他者の決断に依存して,なってしまった」と語られた。③「今振り返ると,過去に起きたこと,思ったことはすべてよかった」と繰り返し語られた。これらの点から,彼らの自己物語は,プロ野球選手という役割への執着(Role Residual: Ebaugh, 1988)を断ち切るための語りであることが明らかになった。