抄録
本研究は,公立高校に在学する 2 人の中国人男子生徒の事例を通し,ニューカマー生徒の学校適応のプロセスを明らかにし,学校適応に影響を及ぼしている主要因を見出すことを目的とした。エスノグラフィーという研究方法を用い,参与観察と教師,生徒,保護者へのインタビュー,文書資料で得たデータを「仮説生成法」で分析を行った。明らかになった主要因は,①生徒の来日動機や性格特性など,生徒が学校外で既に持っている「社会的差異」という個人内の要因。②生徒と教師との相互作用の要因。③生徒の情報の伝わりにくさを更に増幅させる教員組織の要因。この 3 つの要因は相互に作用し,生徒の適応に影響する。具体的には,教師の期待と生徒の振る舞いと一致していれば,教師と生徒との間に,生徒の成長を支える「正の相互作用」が生じ,教師が自ら進んで学習指導を行うことで,生徒の「学校好適応」にますます寄与する。反対に,生徒の振る舞いが教師の期待に添わなければ,生徒と教師の間に「負の相互作用」が生じる。教師は積極的に関わりを持たずに,生徒の「社会的差異」による「学校不適応」の状況にさらに重く加担することになる。