抄録
質的研究における「対話的モデル生成法(DMPM)」の基礎作業の一環として,次の観点から理論的検討を行った。(1) バフチンの対話原理から 4 つの革新的概念を整理し,特に「対話と差異」「多声性とテクスト」概念と関連させて検討した。(2) バフチンの対話原理をさらに発展させ,筆者の「多声テクスト間の生成的対話」概念を提示した。特に現代思想における「差異」を「生成」に変換する議論をもとに,ドゥルーズの「生成」概念と筆者の「両行 りょうこう」概念,デリダの「差延」概念と筆者の「はなれる」概念を関連づけて考察した。さらに,「多声テクスト間の対話」に関して,クリステヴァの「間テクスト性」「ポリローグ」概念とコンピュータ科学の「ハイパーテクスト」概念をむすびつけた。(3) 全体の議論のもとになる世界観と方法論を 3 つのモデル「ツリーモデル」「リニアモデル」「ネットワークモデル」によって提示し,「多声テクスト間の生成的対話」概念を,ネットワークモデルに位置づけた。