抄録
本研究では概念理解を,バフチンおよびヴィゴツキー理論の立場から,暗記的に概念を習得する単声的学習に始まり,自らの既有知識との間で妥当な意味を創発する多声的学習へ向かう発達過程と捉えた。そして既有知識である日常経験知と矛盾する意味を持つ科学的概念を学習する中学 2 年生を対象に,この発達過程を具体的に検討した。研究 1 では,単声的学習を行う学習者のメタ認知を検討した。その結果,彼らは解釈困難な概念であっても,暗記によって学習を進めることで,将来,日常経験知との関係性を解釈できることを期待するというメタ認知を持っていたことが明らかになった。すなわち単声的学習は,概念理解の発達を目指した学習者の,積極的な学習戦略によって行われている可能性が示唆された。研究 2 では,単声的に概念を習得した学習者を継続的に観察することで,単声的学習から多声的学習へと至る発達過程の実態について検討した。その結果,授業で獲得した他の概念を引用することで,最終的に暗記した概念を日常経験知と結びつけ,解釈できる者がいることが明らかになった。すなわち本研究では,単声的学習が後の多声的な概念理解を下支えしている実態が示され,また単声性と多声性の絡み合いとしての概念理解の発達像が具体的に明らかにされたといえる。