抄録
山陰中部の中海・宍道湖地域において, 低湿地遺跡の発掘調査で得られた地質学的資料と既存のボーリング資料などから, 完新世の海面変化と古地理変遷について検討した. この地域では, 平野下および潟湖湖底の海成層中にK-Ahを連続的に追跡することができる. その深度は, 宍道湖湖心付近では標高−20m以深であるが, 松江平野にむけて浅くなり, 標高−0.5~−0.2mを上限として分布する. 分布上限部でのK-Ahの産状から, 降灰当時の海面は標高−0.5~−0.2m付近にあったとみられる. 海面高度は5,000yrsBPに標高1m程度の最高海面に達した. 4,000yrsBPには標高0m付近にあって, その後はほぼこの高度で推移したとみられるが, 1,500年前頃に標高−0.4~−0.1mに低下していた可能性がある. 古地理については, 完新世初頭の海面上昇に伴って, 現在の大橋川を挾んで西側と東側に宍道湖と中海の原型となる湾が出現した. 宍道湖側の湾は, K-Ah降灰以前の一時期, 最も外海的要素が強い環境が出現した. K-Ah降灰時にはやや閉鎖的な内湾環境に変化しており, その後, 湾口部に出雲平野が発達することで, 湾は閉塞され, 宍道湖が形成された. 出雲平野西部には, 4,800yrsBPと3,700yrsBPの三瓶火山の活動によって供給された火砕物が厚く分布し, 火山活動が平野の形成に影響を与えたことが推定できる.