第四紀研究
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45 巻, 5 号
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「汽水域における完新世の古環境変動―自然環境の変遷と人為改変による環境変化―」 特集号
  • ―自然環境の変遷と人為改変による環境変化―
    瀬戸 浩二, 山田 和芳, 高田 裕行, 坂井 三郎
    2006 年 45 巻 5 号 p. 315-316
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
  • 山口 啓子, 瀬戸 浩二, 高安 克己, 相崎 守弘
    2006 年 45 巻 5 号 p. 317-331
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    二枚貝の殻体中には, 成長の記録や環境のさまざまな情報が含まれている. ヤマトシジミの外殻層には不透明層と透明層が認められる. 電子顕微鏡とレーザー顕微鏡で詳細な観察を行った結果, 両層の微細構造には明らかな違いが認められた. 不透明層よりも透明層のマトリックスの有機物が少ないために, 両層が異なる性質を示すと考えられた. 標識実験によると, 透明層は夏から冬にかけて形成され, その時期は個体によってさまざまである. 秋に不透明層ができず, 成長が少ない場合には, 透明層と貝殻表面の年輪が一致する. 各層の形成は, 炭素酸素安定同位体比 (特に酸素) の値の変化と同期している. 殻体構造と同位体の分析をあわせることにより, ヤマトシジミの殻を使って過去の生態や汽水環境を復元する詳細な情報を得ることができると期待される.
  • 平井 幸弘
    2006 年 45 巻 5 号 p. 333-345
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    本稿では, さまざまな人為的影響の大きい霞ヶ浦を対象とし, とくに湖岸・沿岸帯での地形改変および水位管理に注目して, 地形学的視点から過去約50年間の環境変化について検討した.
    霞ヶ浦の湖岸では, 干拓によって湖岸線の総延長や肢節量が減少し, 堤防の「沖出し」によって抽水植物群落地が失われ, それ以降無植生となった箇所が多い. 沿岸に連続して発達していた湖棚地形は, 航路掘削, 揚排水機場の建設とその沖合の浚渫によって, 深さ1.5~3m, 幅約50mの溝状凹地で分断された. また, 湖底での砂利採取によって湖棚の一部が破壊され, 湖底平原にも深さ約10mに達する凹地が出現した. 霞ヶ浦の湖水位はかつて冬季から春先にかけて低下し, 夏季から秋口にかけて上昇するという季節変化が見られたが, 常陸川水門による水位管理が開始された1975年以降, 年平均湖水位は上昇し, かつての季節変化はなくなり, 1年を通じて安定するようになった.
    このような人為的な地形改変および水位管理の結果, 湖岸での波浪エネルギーの増大によって, 砂浜や植生帯の侵食が進む一方, 湖棚沖合では漂砂の移動限界水深より水深が増大したために, 堆積物が移動せず, 砂州地形が形成・維持されなくなったと考えられる.
  • 野村 律夫, 根本 直樹, 小村 和久
    2006 年 45 巻 5 号 p. 347-360
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    海面の水位変動に対する海跡湖の環境変化を検討するために, 青森県下北半島にある汽水湖の尾駮沼よりコア試料を採取した. 210Pbと137Csの放射能測定による堆積速度は0.075g/cm2/yrであった. 有孔虫群集はAmmoniabeccarii ” のみで占有されており, 1954年ころ, および1960年代~1970年前期にかけて多産した. しかし, 1950年以前と1980年以降は産出が少なかった. このような有孔虫の遺骸群集の変化は, 気象庁の八戸験潮所で記録されている経年的水位変化ときわめて調和的であった. A. “beccarii ” の多産は, 湖水と沿岸海水の交換が活発で, また湖内の基礎生産が高まったことを示唆する. しかし, 1980年以降には海面水位の上昇とは逆に, 有孔虫数は少なく, 炭素/窒素比も減少する. その結果, 湖内の環境は1980年~1990年にかけて大きく変化した.
  • 高田 裕行, 瀬戸 浩二, 坂井 三郎, 田中 里志, 高安 克己
    2006 年 45 巻 5 号 p. 361-373
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    京都府北部の阿蘇海において採取された柱状試料ASC2 (長さ4m) とAso4-2 (長さ1.6m) について底生有孔虫化石を検討し, 過去1,200年間の阿蘇海の古環境変遷を考察した. これらの柱状試料下部 (約380cal BP以前) では, 内湾環境と季節的な貧酸素状態にある汽水環境が, 2回にわたり交替した. 一方, これらの柱状試料上部 (約380cal BP以降) では, 現在のように閉塞的な潟湖のほぼ恒常的な貧酸素状態が発達し, 何度か溶存酸素レベルの一時的な上昇がみられた. これらの柱状試料上部における潟湖底層付近の溶存酸素レベルの一時的な上昇は, 暴風雨による砂州 (天橋立) の決壊と, それに伴う湖口の形成に対応している可能性が高い.
  • 瀬戸 浩二, 中武 誠, 佐藤 高晴, 香月 興太
    2006 年 45 巻 5 号 p. 375-390
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    宍道湖から得られた表層堆積物と2本のコアについて堆積学的・地球化学的解析を行い, 現世および斐伊川東流イベント前後の堆積環境を比較した.
    低鹹汽水湖である現在の宍道湖では, 斐伊川起源の細粒砕屑物を堆積させるシステムと, 大橋川からの密度流によって運搬された粗粒堆積物を堆積させるシステムの両方の特徴を持った堆積物が認められる. 斐伊川東流イベント前の宍道湖は, 生物生産性が低く, 堆積速度が遅い還元的な汽水環境を示す. これは斐伊川以外の河川の流入量が減少し, 宍道湖への栄養塩および砕屑物の負荷量が減少したことによると思われる. 当時の堆積システムは, 両コアとも堆積物のモード径が粗く, 湖心側で細かいことから, 大橋川からの密度流に起因するものであったと推定した.
    斐伊川東流イベント後の平均的な堆積速度は, イベント前と比較すると4~6倍速い堆積速度を示す. これは, 斐伊川の流路変更により, 宍道湖が斐伊川河口のある西側から大きく埋積されていったことを示している. 粒度頻度分布の解析から, 斐伊川東流イベント後の堆積システムは, 現在と同様な堆積システムを持っている. 粒度頻度分布におけるモード径と最頻値, TOC/TN比の層位的な変化から, 時間とともに斐伊川の流量が増加したことが推定される.
  • ―ボーリングコア解析による検討―
    山田 和芳, 高安 克己
    2006 年 45 巻 5 号 p. 391-405
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    出雲平野―宍道湖地域において掘削された完新世全体をカバーする3本のボーリングコアについて, 層相, 試料の地球化学分析および14C年代測定を行い, 完新世における堆積環境の変遷過程を復元した.
    この地域では, 少なくとも9,200年前頃には西方に開く内湾になり, 約7,000年前に急激に閉鎖的な汽水湖沼に変化した. その後, 東部 (現在の宍道湖付近) は, 約6,000年前に斐伊川ファンデルタ発達のために西部地域と分断された水域になり, 以後約400年前まで閉塞的な汽水湖沼環境が続いた. 一方, 西部 (現在の出雲平野西部付近) は, 約4,000年前に生じた三瓶山火山活動の影響によって, 閉鎖的な汽水から淡水湖沼に環境が激変した. その後, 再び汽水化したが, 最終的には1,000年前頃までに多くの水域が埋積された.
  • 中村 唯史
    2006 年 45 巻 5 号 p. 407-420
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    山陰中部の中海・宍道湖地域において, 低湿地遺跡の発掘調査で得られた地質学的資料と既存のボーリング資料などから, 完新世の海面変化と古地理変遷について検討した. この地域では, 平野下および潟湖湖底の海成層中にK-Ahを連続的に追跡することができる. その深度は, 宍道湖湖心付近では標高−20m以深であるが, 松江平野にむけて浅くなり, 標高−0.5~−0.2mを上限として分布する. 分布上限部でのK-Ahの産状から, 降灰当時の海面は標高−0.5~−0.2m付近にあったとみられる. 海面高度は5,000yrsBPに標高1m程度の最高海面に達した. 4,000yrsBPには標高0m付近にあって, その後はほぼこの高度で推移したとみられるが, 1,500年前頃に標高−0.4~−0.1mに低下していた可能性がある. 古地理については, 完新世初頭の海面上昇に伴って, 現在の大橋川を挾んで西側と東側に宍道湖と中海の原型となる湾が出現した. 宍道湖側の湾は, K-Ah降灰以前の一時期, 最も外海的要素が強い環境が出現した. K-Ah降灰時にはやや閉鎖的な内湾環境に変化しており, その後, 湾口部に出雲平野が発達することで, 湾は閉塞され, 宍道湖が形成された. 出雲平野西部には, 4,800yrsBPと3,700yrsBPの三瓶火山の活動によって供給された火砕物が厚く分布し, 火山活動が平野の形成に影響を与えたことが推定できる.
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