最近20年間に,津波堆積物の研究は地球科学と防災技術の両面で大きく進歩した.地球科学の面では,堆積学や古生物学などの研究から,津波堆積物の形成プロセスの理解が進んだ.また,シミュレーションや水路での津波による堆積過程の再現実験も進んでいる.防災面では,長期にわたる津波の履歴が解明されつつあり,北海道や相模湾周辺では過去7,000年から1万年,南海トラフ沿岸でも3,000年以上に渡るデータが蓄積された.また,津波堆積物が示す浸水範囲などを説明する津波シミュレーションを行うことで,津波を起こした断層モデルの推定や津波の浸水範囲の復元もされるようになった.
しかし,見つかった津波堆積物の数はまだ少なく,ストーム堆積物などとの識別など課題も残る.今後は,信頼性の高い津波堆積物のデータを時間的にも空間的にも密に蓄積していくとともに,津波の波高,流速,遡上範囲などを津波堆積物から定量的に推定する基準を構築していくことが課題である.
こうした成果を社会に還元するために,地質学,地形学,地震学,津波工学,社会学などの連携が必要である.