抄録
海域の斜面も大地震時にはその震動によって崩壊する.したがって,崩壊によって形成される深海底タービダイトは,過去の地震発生履歴の解明の道具の一つとなり得る.1993年北海道南西沖地震は,地震による海底の変動の詳細がよく調べられた地震の一つであり,この地震により斜面崩壊や崩壊堆積物の堆積があったことがわかっている.後志トラフと奥尻海盆から1999年に採取された海底堆積物コアには,この地震によると考えられるタービダイトが認められた.後志トラフのタービダイトは,タービダイト砂の上位に厚いタービダイト泥を有し,陸棚から海盆底までの広い水深範囲の底生有孔虫を含む.これに対して奥尻海盆のタービダイトのうち,タービダイト泥を持たないものは,含まれる底生有孔虫のほとんどが陸棚から上部斜面の種である.この海域では陸棚堆積物は泥分が少なく,斜面堆積物で泥分が増える.後志トラフと奥尻海盆でのタービダイトの堆積構造の違いは,両海盆でのタービダイトへの粒子供給域の違いを反映していると考えられる.