2012 年 51 巻 4 号 p. 239-245
九州と台湾の間に点在する島々は,今日,琉球列島あるいは南西諸島という名で知られている.琉球列島の先史学は最近までおもに地方史という形で検証されていた.また,「列島」あるいは「諸島」といわれながらも,「島」の特徴をもとにした研究はなされていなかった.単なる地方史にすぎなかった琉球列島の先史時代を,島の特徴を考慮しつつ(「島」のコンテクストから)検証すると,人類史に斬新なテータを提供する可能性が明らかになりつつある.本論ではそのうちの2点について紹介する.まず,更新世末期にヒト(Homo sapiens)がいた点である.「島」のコンテクストでみると,完新世以前にヒトが存在した島は世界的にもあまり知られていない.次に,ヒトが島嶼環境に適応すると,環境の劣悪化がおこるといわれている.しかし,最新のデータをもとに考察すると,先史時代の琉球列島の島々では,ヒトによる環境への影響が顕著にみとめられない.この点も世界的に大変稀な現象である.