第四紀研究
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51 巻, 4 号
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「環太平洋の環境文明史」特集号
  • 米延 仁志, 青山 和夫, 高宮 広土
    2012 年 51 巻 4 号 p. 195-196
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
  • 青山 和夫
    2012 年 51 巻 4 号 p. 197-206
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    本稿では,マヤ文明を人類史上で最も洗練された「究極の石器文明」と位置付け,文部科学省科学研究費プロジェクト「環太平洋の環境文明史」の一環として発掘調査を実施している,グアテマラのセイバル遺跡の事例研究を中心に,マヤ文明の盛衰を検討する.セイバル遺跡では,2,000年にわたってマヤ文明が盛衰したが,その起源は従来の学説よりも300年ほど早く,BC1,000年頃にさかのぼることが明らかになった.先古典期後期の2世紀頃,マヤ低地南部の一部の大都市が衰退したが,セイバルは繁栄しつづけた.セイバルは,5世紀の一時的な衰退から7世紀に再興し,マヤ低地南部の多くの都市が9世紀に衰退する中で,2回目の繁栄期を迎えるが,10世紀に放棄された.セイバル遺跡付近の湖沼においてボーリング調査を実施し,2011年にマヤ地域で初めて年縞を確認した.その結果,マヤ文明の盛衰と環境変動の因果関係を検証する見通しがついた.
  • 本谷 裕子
    2012 年 51 巻 4 号 p. 207-214
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    グアテマラ中部高地に位置する2つのマヤ村落サンタカタリーナとナワラの事例をもとに,女性用のウイピル(貫頭衣)の変遷を19世紀末から現代へと遡る通時的検証の成果と,フィールドワークをもとに作成した民族誌資料から,マヤ女性の織りと装いのメカニズムを解き明かす.その結果,棒の織機(後帯機)で布を織るといういとなみは,マヤ文明の時代から変わらぬものの,後帯機で織られた布や衣には,時代ごとの改編を加えた独自の進化が見られることが明らかとなった.そこで,その進化の過程を検証し,マヤ女性の織りと装いのいとなみが,自然災害や急速な近代化,外部社会との政治的駆け引きによって断絶化する人々の紐帯をつなぎとめ,再構築していくレジリアンス(回復力)であることを実証する.
  • 井関 睦美
    2012 年 51 巻 4 号 p. 215-221
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    アステカ王国は1428年から1521年まで,メキシコ盆地を中心に繁栄を極めた.その歴史の中でも,モテクソマ1世の治世(1440~1469年)は最も大きな社会変動期であった.1440年代には自然災害頻発し,1450年からの5年間,異常気象による大飢饉が続いた.食糧の備蓄は底をつき,疫病が蔓延し,多くの民衆がメキシコ盆地を去り,王国は存亡の危機に瀕した.これを機に,王国は旱魃被害の少ないメキシコ湾岸地方を攻略した.主都近郊では耕作地の開拓と水道橋建設を進め,災害対策を拡充した.また繰り返し起こる旱魃を理由に,伝統儀礼を再編し,メキシコ盆地における宗教的・政治的支配力を誇示する機会に利用した.その結果,アステカ王国は急速にその勢力を拡大していった.
    本稿では,異常気象の記録史料を近年の年輪気候学研究の成果と照合し,自然災害の社会的影響と王国の対応策を分析し,アステカ社会における環境認識の変容を考察する.
  • 井上 幸孝
    2012 年 51 巻 4 号 p. 223-230
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    「アステカ王国」(1428~1521年)は,メキシコ盆地を中心として,メソアメリカ後古典期に栄えた.本稿では,植民地時代を含めその歴史的背景を述べた上で,メキシコ盆地の環境・自然現象に関する歴史研究の成果をいくつか取り上げる.アステカ社会は,メソアメリカ文明の中でも文書史料の情報量が多いが,近年では史料解読が飛躍的に進んでおり,すでに整理されたデータに加えて,原史料に直接当たることで,より豊富な情報を引き出すことが可能になる.その一方で,メソアメリカに関する歴史学研究ならびにその隣接諸分野の研究では,儀礼や世界観にかかわる蓄積も多くなされている.これらの成果を取り入れ,メソアメリカの人々の自然観の解明を進めることが,環境文明史の研究の進展につながる.
  • 坂井 正人
    2012 年 51 巻 4 号 p. 231-237
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    ナスカの地上絵が,何のために制作されたのかという疑問に対して,説得力のある答えは得られていない.しかし,豊作を祈願するために制作されたという説が最も有力である.本研究では,地上絵の考古学的研究に対する将来の布石として,ペルー南部海岸ナスカ台地付近の農民たちが,気象現象に関する独自の認識や知識を持っていることを明らかにする.今回の調査によって,以下の4つの認識・知識を持っていることが明らかになった.(1)ナスカ台地周辺で農耕に利用している水は,ペルー南部高地に降る雨に由来する.(2)ペルー南部高地に雨が降るのは,「海の霧」が海岸から山に移動して,「山の霧」とぶつかった結果である.(3)雨期にもかかわらずペルー南部高地に雨が降らないのは,「海の霧」が山に移動しなかったからである.(4)海水を壷に入れて,海岸から山地まで持っていけば,山に雨を降らせることができる.
  • 高宮 広土
    2012 年 51 巻 4 号 p. 239-245
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    九州と台湾の間に点在する島々は,今日,琉球列島あるいは南西諸島という名で知られている.琉球列島の先史学は最近までおもに地方史という形で検証されていた.また,「列島」あるいは「諸島」といわれながらも,「島」の特徴をもとにした研究はなされていなかった.単なる地方史にすぎなかった琉球列島の先史時代を,島の特徴を考慮しつつ(「島」のコンテクストから)検証すると,人類史に斬新なテータを提供する可能性が明らかになりつつある.本論ではそのうちの2点について紹介する.まず,更新世末期にヒト(Homo sapiens)がいた点である.「島」のコンテクストでみると,完新世以前にヒトが存在した島は世界的にもあまり知られていない.次に,ヒトが島嶼環境に適応すると,環境の劣悪化がおこるといわれている.しかし,最新のデータをもとに考察すると,先史時代の琉球列島の島々では,ヒトによる環境への影響が顕著にみとめられない.この点も世界的に大変稀な現象である.
  • 伊藤 慎二
    2012 年 51 巻 4 号 p. 247-255
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    北琉球(トカラ・奄美・沖縄諸島)の貝塚時代の遺跡から得られた考古学的資料に基づき,筆者は貝塚時代を遊動期(ca.7,000~4,500BP)・定着期(ca.4,500~2,500BP)・交易期(ca.2,500~1,000BP)の3期に区別した.“遊動期”の人々はより遊動的な狩猟・採集民であった.しかし,“定着期”には,ある種の「集団領域」が出現することを見出した.そして,周囲の環境を自然そのままの景観から文化景観に人工的な改変が開始された.本論では,ボロノイ分割手法を導入して,定着期の「集団領域」の実態を検証した.その結果,各「集団領域」は,日常的な生活領域と解釈できた.同時代には,そのほかにより大きな領域が日常的な生活領域の上に重層的に重なり,限られた地域資源や広域的な交易網に対応していた可能性がある.
  • 野嶋 洋子
    2012 年 51 巻 4 号 p. 257-265
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    島嶼メラネシアは,太平洋地域のなかでも豊かな環境と文化的多様性をもつ.本論ではメラネシア中央に位置するヴァヌアツを事例に,民族誌・考古学的視点から,島嶼メラネシアにおける生業戦略と社会政治システムとの関連を探る.位階階梯制という競争的な政治システムをもつ北部地域における社会的生産と食物加工技術を重視し,文化的価値が生業戦略やその強化に果たす役割を論じる.ヴァヌアツにおける生業活動や先史後半期の社会変化に関する情報は限られているが,北部地域では20世紀初頭に至るまで,何らかの地域的な集団間交渉が継続したと考えられる.伝統的社会に特徴的なシステムの出現へと繋がる重要な変化は,おそらく過去700年間に生じたと思われるが,環境変化がどれほどのインパクトを与えたかは,現状では判断できない.今後,環境史的研究と,特にこの時期に焦点をあてた考古学的調査を推進することが不可欠である.
  • ハドソン M.J., 青山 真美, フーヴァー K.C., 川島 尚宗, 内山 純蔵
    2012 年 51 巻 4 号 p. 267-274
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    人類が前例のない人為的気候変動や生態系サービスの破壊に直面している現在,考古学は社会・生態システムのレジリアンス(回復力)を高める戦略を,どのように構築すればよいだろうか.考古学は,近年までこの重大な問題について取り組んでこなかった.本論では,まず日本の考古学が人間活動および文化と生態系との関係をほとんど研究してこなかった理由について,検討する.次に,安田喜憲の研究を例に挙げ,日本の考古学の歴史的発展が人間と自然環境のかかわりに関する研究に障害となってきたことを主張する.最後に,レジリアンスを基盤とし,社会・生態システムを計画管理する際のおもな要素をまとめ,その管理のために有効な考古学的戦略を10点提案する.
  • 奥野 充
    2012 年 51 巻 4 号 p. 275-284
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    テフラは,地層中の時間基準となり,さまざまなクロスチェックに役立つ.本論では,環太平洋におけるいくつかの研究例を紹介し,テフラ編年学の多様な役割について述べる.白頭山苫小牧テフラは, 14Cウイグルマッチングと年縞編年をクロスチェックした良い例である.琵琶湖や水月湖などのように湖成層中のテフラは,年縞編年と14C年代の比較から正確な暦年を与えることができ,堆積速度の見積もりにも役立つ.乾陸上でのテフラ層は,ローム/土壌層などの連続的な集積によって保存され,アリューシャン列島では完新世に限られる.熱帯のフィリピンでは,風化速度が速いためにテフラ層として保存されにくいが,イロシン火砕流のco-ignimbrite ashは,堆積直後に降下スコリアで覆われたため,保存された.種子島では,種IIと種IVテフラの14C年代との比較から,ローム層の堆積速度は一定ではないと考えられる.潜在テフラは,層序の精密化に貢献するが,鬱陵隠岐テフラが鬱陵島のU-4に対比できる例が示すように,年代・層序とのクロスチェックが必要である.
  • 安田 喜憲, 米延 仁志, 山田 和芳, 那須 浩郎, 篠塚 良嗣, 森 勇一, ホーフヒムストラ, H.
    2012 年 51 巻 4 号 p. 285-294
    発行日: 2012/08/01
    公開日: 2013/06/14
    ジャーナル フリー
    環太平洋生命文明圏の存在を指摘する.今まで古代文明とみなされてきた文明は,メソポタミア文明やエジプト文明,インダス文明,黄河文明である.それらは,パンを食べ,ミルクを飲んで肉を食べるヒツジやヤギの乳用家畜を飼う文明であった.ところが,環太平洋にはこうしたヒツジやヤギを飼わない文明が存在した.それが長江文明であり,マヤ文明やアンデス文明である.長江文明の人々は米とタンパク質に魚を食べた.マヤ文明やアンデス文明の人々は,イモやトウモロコシを食べ,タンパク質は魚と野生動物,それにリャマやアルパカの肉から摂取したが,ミルクを利用することはなかった.ヒツジやヤギの乳用家畜を飼わなかった環太平洋生命文明圏では,ヒツジやヤギの食害がなく,生態系に対するインパクトが小さく,森と水の循環系を維持し,自然を崇拝し,生命にする畏敬の念をもつ生命文明を発展させることができた.
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