考古学の遺跡で地震を研究する分野である地震考古学は,1988年に誕生した.遺跡に刻まれた地震痕跡は,遺構・遺物との関係から年代を絞り込むことが可能で,平面および断層形態を詳しく観察することもできる.例えば,南海トラフの巨大地震については,文字記録から発生の歴史がかなり把握されているが,地震痕跡の発見によって史料の空白を埋めることが可能である.また,活断層から発生した地震については,周辺の遺跡で地震痕跡を観察することによって,地震動による地盤災害の様子がわかり,被害の文字記録と合わせて地震の全体像を把握できる.液状化現象・地滑りなどの地変については,遺跡で詳しい観察が可能なので,これまで知り得なかった新たな知識を得ることが多い.一方,歴史学や考古学の立場からは,地震という概念を導入することによって,これまで謎とされていた現象が合理的に説明できるようになり,地域の歴史をより正確に把握することができる.