抄録
相模平野西部の歌川低地から得られた約5,800yrs BP以降の泥炭質堆積物の花粉分析から, 本低地周辺の森林植生変遷史を次のように推定した. 約5,800~約5,100yrs BP: コナラ属コナラ亜属, エノキ属-ムクノキ属を主体とする夏緑樹林が卓越した. 約5,100~約3,600yrs BP: コナラ亜属, クリを主体とする夏緑樹林が卓越した. また, コナラ属アカガシ亜属を主体とする照葉樹林とスギ林が次第に拡大した. 約3,600~約1,200yrs BP: アカガシ亜属を主体とする照葉樹林とスギ林が卓越した. 約1,200yrs BP~現在: マツ属を主体とする森林が卓越した. このような森林植生変遷史は, 基本的には相模平野一帯に共通するが, 相模平野南東部の柏尾川低地付近ではマテバシイ属-シイ属がアカガシ亜属とともに照葉樹林構成要素となった時期があるのに対し, 本地域の照葉樹林はアカガシ亜属主体であり続けたという地域性も確認された. 関東平野のいくつかの地点で確認されている約5,000~3,500yrs BPにおけるクリの優勢, 約2,000yrs BP以降のいくつかの段階に及ぶ人間の植生干渉が, 本地域でも確認された.