第四紀研究
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昆虫化石による先史~歴史時代における古環境の変遷の復元
森 勇一
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1994 年 33 巻 5 号 p. 331-349

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抄録

仙台市富沢遺跡・愛知県松河戸遺跡群・愛知県朝日遺跡・静岡市池ヶ谷遺跡の4遺跡より, 計約13,000点の昆虫化石を検出・同定し, 指標性昆虫に注目しながら, 昆虫化石による群集組成の特徴から先史~歴史時代の古環境の変遷を復元した.
富沢遺跡 (旧石器時代) では, 食植性甲虫および水生甲虫を産し, 林に囲まれた湿地が存在したことが推定され, 北方系のクロヒメゲンゴロウの産出からは気候が現在より冷涼であったと考えられる. また本遺跡では, 昆虫化石の出土位置が珪藻分析によって得られた古地理図とよく一致し, 昆虫は死後, その生息場所からほとんど移動することなく化石化したと考えられる.
松河戸遺跡群では, 縄文時代中期の地層から森林性の甲虫を多産し, 遺跡周辺に落葉広葉樹林が成立していたと考えられる. そして, この層準から現在では中部以北に分布するコウホネネクイハムシが発見されることから, 気候が現在よりやや冷涼であったと推定される.
弥生時代中期の朝日遺跡からは, 動物の排泄物や生活ゴミなどに由来する食糞性甲虫や食屍性甲虫など, 都市型昆虫が多数検出された. この事実は, 自然植生が減少し, 人為度の高い裸地的な空間が増大したことを示唆している.
池ヶ谷遺跡では, 弥生時代後期~古墳時代初頭および平安時代の水田層中から, イネネクイハムシやイネノクロカメムシなどの稲作害虫が多数発見された.

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