第四紀研究
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山形県白鷹湖沼群荒沼の花粉分析からみた東北地方南部の植生変遷
守田 益宗八木 浩司井口 隆山崎 友子
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2002 年 41 巻 5 号 p. 375-387

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抄録

山形県白鷹湖沼群中の荒沼の湖底から採取された長さ765cmのコアについて花粉分析を行った.同コアにはAs-YP,AT,Ad-N1,Za-KwおよびOn-Ngの各指標テフラが挾まれており,少なくとも約90,000年間の堆積物である.分析の結果,以下の花粉帯を区分することができた.
S-1:Quercus-Ulmus+Zelkova-Tsuga
S-2:Pinus-Tsuga帯(約90,000年前以前)
S-3:Betula-Pinus-Tsuga-Quercus帯(約90,000~75,000年前)
S-4:Quercus-Fagus-Pterocarya+Juglans-Cryptomeria帯(約75,000~55,000年前)
S-5:Cryptomeria-Tsuga-Picea-Pinus帯(約55,000~45,000年前)
S-6:Betula-Picea-Pinus-Tsuga帯(約45,000~40,000年前)
S-7:Quercus-Fagus-Betula帯(約40,000~28,000年前)
S-8:Betula-Quercus帯(約28,000~25,000年前)
S-9:Betula-Picea-Tsuga帯(約25,000~12,000年前)
S-10:Quercus帯(約12,000~1,000-1,500年前)
S-10a:Betula亜帯
S-10b:Fagus亜帯
S-11:Fagus-Quercus帯(約1,000-1,500年前~現在)
S-2帯とS-3帯は冷温帯性種を随伴することから,温帯針葉樹林時代であった.スギ(Cryptomeria japonica (L. fil.) D. Don)はS-4帯後期からS-5帯にかけて温帯林の主要な構成要素であり,S-6帯は酸素同位体ステージ4に相当し亜寒帯性針葉樹林時代であった.亜間氷期に相当するS-7帯は冷温帯落葉広葉樹林が拡大したが,S-9帯では再び亜寒帯性針葉樹林時代となった.後氷期にあたるS-10,S-11帯では冷温帯性落葉広葉樹林が発達するようになった.
東北地方南部各地点の花粉帯の比較から,森林植生の組成や変遷には地点による多少の違いはあるものの,最終氷期初期の東北地方南部ではスギ林が占めており,その後,この地域の大部分は針葉樹林によって覆われ,30,000~40,000年前には温帯性落葉広葉樹がその分布域を広げたことは明らかである.

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