第四紀研究
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41 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 安江 健一, 廣内 大助
    2002 年 41 巻 5 号 p. 347-359
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    西南日本弧東部で最も活動的な断層系の一つである阿寺断層系の中北部において,分布する活断層の第四紀後期の活動性について明らかにし,調査地域の構造発達様式について考察する目的で地形・地質調査を行った.
    調査地域を流れる竹原川の河成段丘を,阿寺断層系を構成する3断層が横切っている.おのおのの断層には,左横ずれおよび北東側隆起の変位地形が認められ,変位の累積性が確認できる.それらの活断層の過去数万年間の平均変位速度は,水平成分が2.2~63m/ky,上下成分が0.1~0.6m/kyであり,水平成分が上下成分の10倍程度である.既存資料との比較から,この様式の断層運動は,阿寺断層系全域で第四紀中・後期を通じて継続していると考えられる.また,竹原川はかつて大威徳寺跡から舞台峠付近を通過し,白川側に流下する左屈曲を示していた可能性が高く,その後,現在の流路に変更したと考えられる.舞台峠北方一帯は,活断層の不連続部に相当し,調査地域に分布する3本の活断層の走向に平行または低角度で交わる断層が発達して,狭長なブロックを形成している.さらに,断層活動に伴いさまざまな規模の凹地が形成され,そこに堆積物が分布する.調査地域のこれらの構造は,横ずれデュープレックスの形成を示唆する.
  • 杉山 真二, 渡邊 眞紀子, 山元 希里
    2002 年 41 巻 5 号 p. 361-373
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    九州南部に分布する多数のテフラを時間の指標として,最終氷期以降における黒ボク土の分布とその変遷について検討した.その結果,九州南部では約29,000年前から約13,000年前までの最終氷期においても黒ボク土が形成されており,その分布は現在と同様か,より広域であった可能性が認められた.その後,約8,400年前にかけても,広域に黒ボク土が分布していたと考えられるが,約7,300年前には黒ボク土の分布が縮小し,種子島を含む鹿児島県域では黒ボク土がほとんどみられなくなったと推定される.これは,おもに照葉樹林の分布拡大の影響と考えられる.歴史時代には再び黒ボク土の分布が拡大したが,現在では縮小・衰退傾向にあると推定される.これは,農耕地の拡大などによるイネ科草原植生の減少の影響と考えられる.黒ボク土の有機物の給源植物は層準で異なっており,最終氷期はクマザサ属Sasa,完新世以降はススキ属Miscanthusやメダケ属ネザサ節Pleioblastus sect. Nezasaが主体であったと推定される.
  • 守田 益宗, 八木 浩司, 井口 隆, 山崎 友子
    2002 年 41 巻 5 号 p. 375-387
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    山形県白鷹湖沼群中の荒沼の湖底から採取された長さ765cmのコアについて花粉分析を行った.同コアにはAs-YP,AT,Ad-N1,Za-KwおよびOn-Ngの各指標テフラが挾まれており,少なくとも約90,000年間の堆積物である.分析の結果,以下の花粉帯を区分することができた.
    S-1:Quercus-Ulmus+Zelkova-Tsuga
    S-2:Pinus-Tsuga帯(約90,000年前以前)
    S-3:Betula-Pinus-Tsuga-Quercus帯(約90,000~75,000年前)
    S-4:Quercus-Fagus-Pterocarya+Juglans-Cryptomeria帯(約75,000~55,000年前)
    S-5:Cryptomeria-Tsuga-Picea-Pinus帯(約55,000~45,000年前)
    S-6:Betula-Picea-Pinus-Tsuga帯(約45,000~40,000年前)
    S-7:Quercus-Fagus-Betula帯(約40,000~28,000年前)
    S-8:Betula-Quercus帯(約28,000~25,000年前)
    S-9:Betula-Picea-Tsuga帯(約25,000~12,000年前)
    S-10:Quercus帯(約12,000~1,000-1,500年前)
    S-10a:Betula亜帯
    S-10b:Fagus亜帯
    S-11:Fagus-Quercus帯(約1,000-1,500年前~現在)
    S-2帯とS-3帯は冷温帯性種を随伴することから,温帯針葉樹林時代であった.スギ(Cryptomeria japonica (L. fil.) D. Don)はS-4帯後期からS-5帯にかけて温帯林の主要な構成要素であり,S-6帯は酸素同位体ステージ4に相当し亜寒帯性針葉樹林時代であった.亜間氷期に相当するS-7帯は冷温帯落葉広葉樹林が拡大したが,S-9帯では再び亜寒帯性針葉樹林時代となった.後氷期にあたるS-10,S-11帯では冷温帯性落葉広葉樹林が発達するようになった.
    東北地方南部各地点の花粉帯の比較から,森林植生の組成や変遷には地点による多少の違いはあるものの,最終氷期初期の東北地方南部ではスギ林が占めており,その後,この地域の大部分は針葉樹林によって覆われ,30,000~40,000年前には温帯性落葉広葉樹がその分布域を広げたことは明らかである.
  • 中村 洋介
    2002 年 41 巻 5 号 p. 389-402
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    広域火山灰の同定に基づく河成段丘面の編年および地形断面測量から,高清水・法林寺両断層の第四紀後期における変位速度を推定した.砺波平野南東部(山田川流域)および南西部(小矢部川流域)において,第四紀中期(約20~30万年前)以降に少なくとも9段,東砺波丘陵(庄川流域)において4段の段丘面を識別し,それらの分布と離水年代を明らかにした.砺波平野南部両縁を限る高清水・法林寺両断層は,ともに段丘面が平野側に傾き下がる撓曲崖(上下変位量約3~9m)や低断層崖(上下変位量約2~6m)を形成し,一部の場所では低断層崖や撓曲崖の背後に逆向き低断層崖を形成している.西縁の法林寺断層の後期更新世における上下平均変位速度は,0.10~0.35m/1,000年であり,場所による変位速度の変化はそれほど認められない.東縁の高清水断層の後期更新世における上下平均変位速度は,南部で0.16~0.32m/1,000年,中~北部で0.06~0.19m/1,000年である.高清水断層の変位速度が場所によって変わる理由は,高清水断層の砺波平野内における活動開始時期や,地表における活動域の変遷が大きく関与しているためと考えられる.
  • 奥田 昌明, 岡崎 浩子, 佐藤 弘幸
    2002 年 41 巻 5 号 p. 403-412
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    房総半島西部坂田に分布する下総層群藪層に対して花粉分析を行った結果,堆積層変化との非常によい相関が示された.泥質のラグーン堆積物からは,おもに針葉樹による多様な花粉群集が産し,花粉絶対量も安定して高かったのに対し,砂質の外浜堆積物からの花粉群集はおそらく異地性で,花粉絶対量もまた群集としての多様性も低かった.ラグーン堆積物中の優占分類群はトウヒ属で,モミ属・マツ属・ツガ属・カバノキ属・ブナ属・ヒノキ科などを伴っていた.同時に,ハンノキ属とヨモギ属などの草本が多産し,陸域に近い浅海性の堆積環境が推定された.これらの結果は,上記の針葉樹花粉群集がいわゆる遠距離飛来花粉を反映している可能性がきわめて低く,むしろトウヒ属を中心とする針葉樹林がステージ9の終わりからステージ8にかけて房総半島に拡大したことを示唆している.これは神奈川県相模地域のステージ4堆積物から亜寒帯-冷温帯性トウヒ林が復元されている事実とも整合的である.
  • 古澤 明, 梅田 浩司
    2002 年 41 巻 5 号 p. 413-420
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    これまでに屈折率の測定されていない大山最下部火山灰と下部火山灰にはさまれるテフラについて,残存する斜方輝石,角閃石,カミングトン閃石の屈折率を測定した.またDMPについては,ごくわずかに斑晶に付着するガラスの屈折率を測定した.
    最下部火山灰を構成する各テフラは,鉱物組成,斜方輝石および角閃石の屈折率から,それぞれ識別できる.最下部火山灰cpmおよびhpm1のフィッション・トラック年代と,琵琶湖湖底堆積物中の大山火山起源とされるBT44-49火山灰層群の推定堆積年代との対比から,BT44-49火山灰層群の一部は,大山最下部火山灰に対比できる可能性があり,BT44-49火山灰の角閃石および斜方輝石の屈折率が明らかになれば,両地点におけるテフラの対比を検討することが可能と考える.
  • 伊藤 久敏, 谷口 友規, 篠原 謙太郎, 江藤 哲人
    2002 年 41 巻 5 号 p. 421-426
    発行日: 2002/10/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    放射年代値の報告例の少ない前期更新世テフラとして,多摩丘陵に分布する上総層群の3枚のテフラを対象に,ジルコンを用いたフィッション・トラック(FT)年代測定を行った.ジルコンのFT法で更新世テフラを年代測定する場合,自発トラックを正確に数多く計測することが重要である.このことを評価する手段として,まず,高精度に年代測定された大阪層群ピンク火山灰の年代を測定し,信頼性の高い年代が得られることを確認した.多摩丘陵に分布する上総層群のテフラのFT年代値として,第2図師タフ:1.7±0.2Ma,第2堀之内タフ:1.4±0.1Ma,根方タフ:1.1±0.1Maが得られ,既存の推定年代値と調和した年代値を示した.
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