面積は小さいが,日本アルプスは第四紀研究にとって重要な高山環境なので,そこでの研究は注目に値する.日本アルプスの削剥にとっては,大規模崩壊などの重力地形が重要である.その発生時期や,下流の河谷の埋積とどのように関係するかについてはまだ未解決である.最終氷期の氷河最大拡張期はMIS4~MIS5aであった.そして,最終氷期後半の氷河最大拡大時期はMIS2(北半球氷床のLGM)ではなく,MIS3の可能性が大きい.したがって,MIS2の氷河最大拡大期を想定して書かれたこれまでの垂直分布図や古環境地図は改訂を検討すべきである.日本アルプスにも,過去には山岳永久凍土が存在し,現在も局所的には分布することが岩石氷河の研究や地温観測から明らかになった.晩氷期と完新世の寒冷期における山岳永久凍土の地形形成や,植生に対する役割を再評価すべきである.最終氷期から完新世への移行期には,高山帯での崩壊が頻発したらしい.今後の研究の進展のためには,未発表の調査結果の印刷と公開現地検討会の開催が重要である.