日本に飛来する風成塵(黄砂)の粒径やフラックスは,アジアモンスーンや偏西風強度を記録していると考えられている.そこで本研究では,日本海秋田沖で採取された海底コアKT94-15-PC-5を用いて,日本海に飛来する黄砂粒子の粒径・含有量を過去14万年間にわたって復元した.コアに含まれる黄砂の中央粒径・含有量は,グリーンランド氷床コアGRIP (Greenland Ice Core Project)の酸素同位体比変動と類似した変動パターンを示し,氷期に大きく間氷期に小さい数万年周期の変動と,Dansgaard-Oeschgerサイクルに対応した亜氷期に大きく亜間氷期に小さい数千年周期の急激な変動を示した.この結果から,大局的にはMIS (Marine Isotope Stage)1,3,5において,数千年スケールで見るとMIS3~5dの亜間氷期には,夏季モンスーンが強かったか,あるいは偏西風が弱かったことが推測された.また,MIS2,4,6およびMIS3~5dの亜氷期においては,夏季モンスーンが弱かったか,あるいは偏西風が強かったことが推測された.黄砂の粒径・含有量変動は,MIS5を通じてGRIPの酸素同位体比に類似した変動パターンを示し,信憑性が疑われてきたGRIPのMIS5e部分の酸素同位体比記録に大きな乱れはなく,急激な気候変動の繰り返しが実際に存在していた可能性を示唆した.