抄録
水素を燃料とした燃料電池自動車(FCV)が,次世代の自動車として世界中で研究開発されている.常温常圧下における水素の単位体積あたりのエネルギーは著しく小さいため,専用のタンクに最大70MPa(15℃基準)まで水素を圧縮してFCVに搭載している.車両火災時の内圧上昇によるタンクの破裂を回避するため,高圧水素を短時間で排出する熱作動型の安全弁がタンクには備わっている.安全弁が作動すると短時間に大量の水素が噴出されるため,数メートル規模の火炎が瞬間的に形成される.一方,FCVに水素を供給する水素ステーションでも高圧水素の漏洩噴出事故が想定され,爆発的な火炎の形成が懸念される.
一般財団法人日本自動車研究所(JARI)の水素・燃料電池自動車安全評価試験設備(Hy-SEF)では,このような様々な火災実験や漏洩爆発実験を実施して周囲の影響を評価している.その評価の一つには,火災周囲の人に対する火傷の評価がある.この評価は,Eisenbergらによる単純化された式に測定した熱流束を適用して行っている.しかしながら,この式では表皮のみの軽い損傷の火傷しか評価ができない欠点がある.そこで,より深い皮膚層に達する重度の火傷までを対象とする火傷評価の数値シミュレーションモデルの開発を行った.