抄録
本報告では,2020年度SIP第2期「視野障害を有する者に対する高度運転支援」 事業で名古屋大学 未来社会創造機構が担当された「ドライビンクシミュレーターの利用による運転支援機を対象とした視野障害特有の事故の削減効果の検証」において一般財団法人日本自動車研究所 (JARI) がSIP第1期にて開発したシミュレーション を活用した事故低減効果算出について述べる.
同事業では,視野障害者の運転に対し支援システム利用による安全性確保を担保するための方法論を確立し,それを周知啓発することを目標とし実施された.その一環として,まず,医療機関においてドライビングシミュレーター (以下,DSという) を用いた視覚障害 (緑内障,色素変性による) のうち視野障害(視野角欠損)のデータ収集およびデータベース構築を行い,視野障害特有の事故要因を明確化し,次に事故リスクに対して自動ブレーキや音声支援をはじめとする運転支援システムの支援条件を検討した.これらの結果を用いて,運転支援システムの有用性・有効性について,視野障害を例として社会や関係各所に広く情報発信し,高度運転支援システムの普及と安全意識の向上を目指し実施した.今回,JARIは支援条件の検討の一環としてシミュレーションを用いた事故低減効果を算出した.このシミュレーションは,JARIが経済産業省より受託したSIP第1期「戦略的イノベーション創造プログラム (自動走行システム):交通事故低減詳細効果見積もりのためのシミュレーション技術の開発及び実証」 事業にて開発したものである.本シミュレーションは,シミュレーションに登場する各交通参加者 (ドライバ,歩行者,自転車) のエラーなどの事故要因も含めた行動モデルを可能な限り忠実に織り込むことにより実際の交通環境において偶発的に発生する事故を模擬できるものであり,各交通参加者が,知覚・認知,判断及び操作を自律的に行う主体 (エージェント) となり,相互の行動に影響し合うマルチエージェント方式を採用したものである.このシミュレーションを用い算出された健常者と視野障害者の事故発生頻度の比較と運転支援システムを搭載した場合の定量的な事故低減効果を「ドライビンクシミュレーターの利用による運転支援機を対象とした視野障害特有の事故の削減効果の検証」における視野障害者に対する運転支援システムの有効性検証に活用いただいた.