JARI Research Journal
Online ISSN : 2759-4602
2021 巻, 12 号
JARI Research Journal 2021年12月号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
研究速報
  • 大田 浩之, 安達 章人, 内田 信行, 北島 創, 青木 宏文, 稲上 誠, 田島 淳
    原稿種別: 研究速報
    2021 年2021 巻12 号 論文ID: JRJ20211201
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/16
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本報告では,2020年度SIP第2期「視野障害を有する者に対する高度運転支援」 事業で名古屋大学 未来社会創造機構が担当された「ドライビンクシミュレーターの利用による運転支援機を対象とした視野障害特有の事故の削減効果の検証」において一般財団法人日本自動車研究所 (JARI) がSIP第1期にて開発したシミュレーション を活用した事故低減効果算出について述べる.  同事業では,視野障害者の運転に対し支援システム利用による安全性確保を担保するための方法論を確立し,それを周知啓発することを目標とし実施された.その一環として,まず,医療機関においてドライビングシミュレーター (以下,DSという) を用いた視覚障害 (緑内障,色素変性による) のうち視野障害(視野角欠損)のデータ収集およびデータベース構築を行い,視野障害特有の事故要因を明確化し,次に事故リスクに対して自動ブレーキや音声支援をはじめとする運転支援システムの支援条件を検討した.これらの結果を用いて,運転支援システムの有用性・有効性について,視野障害を例として社会や関係各所に広く情報発信し,高度運転支援システムの普及と安全意識の向上を目指し実施した.今回,JARIは支援条件の検討の一環としてシミュレーションを用いた事故低減効果を算出した.このシミュレーションは,JARIが経済産業省より受託したSIP第1期「戦略的イノベーション創造プログラム (自動走行システム):交通事故低減詳細効果見積もりのためのシミュレーション技術の開発及び実証」 事業にて開発したものである.本シミュレーションは,シミュレーションに登場する各交通参加者 (ドライバ,歩行者,自転車) のエラーなどの事故要因も含めた行動モデルを可能な限り忠実に織り込むことにより実際の交通環境において偶発的に発生する事故を模擬できるものであり,各交通参加者が,知覚・認知,判断及び操作を自律的に行う主体 (エージェント) となり,相互の行動に影響し合うマルチエージェント方式を採用したものである.このシミュレーションを用い算出された健常者と視野障害者の事故発生頻度の比較と運転支援システムを搭載した場合の定量的な事故低減効果を「ドライビンクシミュレーターの利用による運転支援機を対象とした視野障害特有の事故の削減効果の検証」における視野障害者に対する運転支援システムの有効性検証に活用いただいた.
技術資料
  • 金成 修一, 森川 多津子, 田宮 日奈, 冨田 幸佳, 伊藤 晃佳
    原稿種別: 技術資料
    2021 年2021 巻12 号 論文ID: JRJ20211202
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/16
    研究報告書・技術報告書 フリー
    015年にフランス・パリで開催されたCOP21 (国連気候変動枠組条約第21回締約国会議) にて,日本政府は地球温暖化対策の中期的な目標として,2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で26 %削減することを表明した.この削減目標は5年毎に見直し,国際目標として提出することが求められている.さらに,菅義偉首相は2020年の第203回臨時国会の所信表明演説にて,2050年までに国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロまで削減することを表明した.日本の総CO2排出量のうち運輸部門からの排出は約2割であるが,このうち自動車部門が9割を占めており,2030年,2050年の目標達成には自動車部門の早期の対策実施が必要である.自動車部門の主要なCO2排出量対策の一つとして,走行時にCO2を排出しない電気自動車 (BEV) 等の次世代自動車の導入が挙げられる.しかし,既往の検討では,次世代自動車導入によるCO2排出量削減のターゲットは乗用車が中心であり,貨物車などの業務用車両では物流の効率化などの対策に重点が置かれており,検討がほとんど行われていない.物流の効率化は貨物車のCO2削減に対し,プライオリティの高い提案の1つではあるが,貨物車から排出されるCO2排出量は運輸部門の約4割を占めているため,乗用車と同様に次世代自動車導入もより積極的に進めていくべきであると考えられる.これまでの貨物車への次世代自動車導入の議論の多くは,貨物車の幅広い用途に加え,顧客のニーズが第一義的に存在するため,事例解析による効果検証にとどまってきた.しかし,積載量や移動距離,使用実態などの点を精査することにより,次世代自動車の導入を無理なく進められる車種・分野を見出す検討が必要であると考えられる.  本報では,業務用車両としての貨物車の電動化を図るため,貨物車の使用実態に関する情報 (走行距離,停止時間,駐車情報など) の収集・分析を行った.次に,調査結果に基づき,電動車の中で普及の制約があるBEVを中心に電動車の性能,価格などのユーザ選好,および充電インフラのスペックを考慮した電動車導入の最適な適用範囲を検討し,筆者らが開発を進めている技術選択モデルにて,中期である2030年を対象に電動車の普及可能性を検討した.
研究活動紹介
解説
  • 鈴木 徹也, 平井 洋, 沖山 清美
    原稿種別: 解説
    2021 年2021 巻12 号 論文ID: JRJ20211204
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/16
    研究報告書・技術報告書 フリー
    2050年カーボンニュートラルに向け,温室効果ガスの削減は喫緊の課題である.我が国の温室効果ガス排出量の18.6 %は運輸部門が占め,その86.1 %が自動車由来である1) .地球温暖化対策計画では,運輸部門での削減のために,自動車の燃費向上等の単体対策に加えて,交通流対策等を含めた総合的な対策を推進するとあり,取り組みの1つとしてエコドライブを挙げている2) .また,国民運動及び環境教育の推進のための取り組みとして,エコドライブ等の低炭素なライフスタイルの選択のため,幅広い層を対象にニーズに応じた教材やコンテンツ等を効果的に提供するとある. 警察庁,経済産業省,国土交通省,環境省で構成するエコドライブ普及連絡会は,エコドライブとして推奨される行動をまとめた「エコドライブ10のすすめ」を,エコドライブの普及・推進において統一的に用いるためのものとして2003年に策定し,2006年,2012年の改訂を経て広報啓発を行ってきた.前回の改訂から一定期間経過していることから,普及連絡会は改訂の必要性について関係団体等と点検を行い,2020年1月に「エコドライブ10のすすめ」を改訂した3) .また,その周知を図るため「エコドライブ10のすすめ」リーフレットを作成した4) . 本稿では,「エコドライブ10のすすめ」のこれまでの見直しの経緯と今回の改訂のポイント,および改訂と同時に発行されたリーフレットの概要について述べる.
  • 山田 英助
    原稿種別: 解説
    2021 年2021 巻12 号 論文ID: JRJ20211205
    発行日: 2021年
    公開日: 2025/01/16
    研究報告書・技術報告書 フリー
    地球温暖化の防止は人類共通の喫緊の課題であり,日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指し,運輸部門では2035年までに乗用車の新車販売で純粋なガソリン車をゼロにすることを掲げている.カーボンニュートラルの実現に向けて,再生可能エネルギーと組み合わせた水素の利用が注目されている.運輸部門での水素の利用としては,水素と酸素の電気化学反応を利用する燃料電池車 (FCV:Fuel Cell Vehicle) が研究開発されており,2014年に市販化されている.これまでに乗用車 (LDV:Light Duty Vehicle) ,バス,フォークリフトなどがFCVとして実用化されて普及が期待されている.FCVの燃料である水素は,単位体積あたりのエネルギー密度が著しく低いため,最大70 MPa (15 ℃基準) に圧縮して専用の圧縮水素容器に充填する.水素の充填を行うための圧縮水素スタンド (水素ステーション) も設置が進められている.現状では概ねLDVで5 kg,バスで25 kg,フォークリフトで1 kg (35 MPa) の圧縮水素を搭載している.  近年では,大型車 (HDV:Heavy Duty Vehicle) への燃料電池の応用が世界的に注目されている.HDVでは,最大100 kgの水素搭載量が想定されている.さらに,HDV以上に水素搭載量が多い鉄道,船舶,航空機等のモビリティへの燃料電池 (または水素燃焼エンジン) の応用も研究開発が進められている.このような大量の水素を搭載するモビリティでは,現在利用されている圧縮水素ではなく,液体水素での利用形態も検討されている.70 MPaの圧縮水素より液体水素の方が,密度が高くより小さいスペースで車両に搭載できるため有利とされる.  水素の液化が初めて達成されたのは1898年のことで,Dewarにより20 ccの液体水素が得られた) .その後,水素の液化手法の研究が進み,現在は数十トン/日程度の大規模な液化水素プラントも世界各地で稼働している.  モビリティの燃料として液体水素の応用が検討され始めたのが1950年頃である.その頃から燃料として液体水素を搭載した飛行機やロケットの研究開発が盛んになり,1963年には液体水素を燃料としたエンジンがロケットに初めて使用された .現在でも,ロケットエンジンの燃料として利用されている.  一方,地上を走行する車両への液体水素の利用は,少し遅れて1966年にGeneral Motors (GM) からプロトタイプ車両が発表された .現在,市販のFCVで利用されている圧縮水素よりも早い段階で液体水素の利用が検討されている.また,ロケットと同様に液体酸素も搭載しており,ロケットは燃焼としての利用であるが,このプロトタイプ車両は燃料電池としての利用である.2000年頃には水素ステーションでの車両への液体水素の充填試験や公道での走行試験が実施されている.  2010年前後から,純粋な液体水素ではなく超臨界領域も考慮したCryo-Compressed Hydrogen (CcH2) に関する研究が多くなっている.米国のLawrence Livermore国立研究所 (LLNL) ,BMW,Lindeなどによって車両への充填試験などが行われている.近年では,Daimler TruckとLindeによるSubcooled Liquid Hydrogen (sLH2) も注目されている .  本稿では,従来の液体水素 (LH2:Liquid Hydrogen) ,CcH2,sLH2の各利用形態に対して充填技術の特徴と開発の歴史をまとめる.
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