抄録
015年にフランス・パリで開催されたCOP21 (国連気候変動枠組条約第21回締約国会議) にて,日本政府は地球温暖化対策の中期的な目標として,2030年までに温室効果ガス排出量を2013年比で26 %削減することを表明した.この削減目標は5年毎に見直し,国際目標として提出することが求められている.さらに,菅義偉首相は2020年の第203回臨時国会の所信表明演説にて,2050年までに国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロまで削減することを表明した.日本の総CO2排出量のうち運輸部門からの排出は約2割であるが,このうち自動車部門が9割を占めており,2030年,2050年の目標達成には自動車部門の早期の対策実施が必要である.自動車部門の主要なCO2排出量対策の一つとして,走行時にCO2を排出しない電気自動車 (BEV) 等の次世代自動車の導入が挙げられる.しかし,既往の検討では,次世代自動車導入によるCO2排出量削減のターゲットは乗用車が中心であり,貨物車などの業務用車両では物流の効率化などの対策に重点が置かれており,検討がほとんど行われていない.物流の効率化は貨物車のCO2削減に対し,プライオリティの高い提案の1つではあるが,貨物車から排出されるCO2排出量は運輸部門の約4割を占めているため,乗用車と同様に次世代自動車導入もより積極的に進めていくべきであると考えられる.これまでの貨物車への次世代自動車導入の議論の多くは,貨物車の幅広い用途に加え,顧客のニーズが第一義的に存在するため,事例解析による効果検証にとどまってきた.しかし,積載量や移動距離,使用実態などの点を精査することにより,次世代自動車の導入を無理なく進められる車種・分野を見出す検討が必要であると考えられる.
本報では,業務用車両としての貨物車の電動化を図るため,貨物車の使用実態に関する情報 (走行距離,停止時間,駐車情報など) の収集・分析を行った.次に,調査結果に基づき,電動車の中で普及の制約があるBEVを中心に電動車の性能,価格などのユーザ選好,および充電インフラのスペックを考慮した電動車導入の最適な適用範囲を検討し,筆者らが開発を進めている技術選択モデルにて,中期である2030年を対象に電動車の普及可能性を検討した.