中小企業会計研究
Online ISSN : 2435-8789
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中小企業会計の実態と課題
―税理士アンケートに基づいて―
金子 友裕
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2016 年 2016 巻 2 号 p. 26-34

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抄録

 本稿は,東北税理士会所属の税理士のうち,岩手県,宮城県,福島県の税理士会に所属する税理士1,715人に対して行った2014 年度のアンケート調査について,会計に関する質問を中心に分析を行った。

 本アンケート調査では,回帰分析の結果において会計は経済状況の変化の主要な因子にはなっていないが,個別の質問において会計の有用性が確認できた。会計の有用性については,融資だけでなく,事業計画や経営が意識されたとの回答が多くあった。

 また,「中小企業の会計に関する指針」(以下,「中小会計指針」)は,「中小企業の会計に関する基本要領」 (以下,「中小会計要領」)の公表があったにもかかわらず,以前と比較しても利用割合の大きな差異はなかった。中小会計要領は,中小会計指針と比較し利用割合が高く,一定の普及がなされたものと思われる。しかし,利用状況について,利用する会計ソフトにより区分して分析したところ,利用の程度に差異が確認された。今後の普及を考えるのであれば,普及の進んでいないところにも利用を促す必要がある。

 また,中小会計要領については,メリットとして融資関係の指摘が多いが,実態把握等の会計本来の機能の指摘もあった。また,デメリットとして,銀行等の責任回避の指摘があり,融資する銀行等の金融機関の側における中小会計要領の利用方法にも課題が存在する可能性がある。

 今後は,中小企業に適用可能な会計制度の普及を進める必要があるものと思われるが,本研究で確認された現状の普及の偏りや感じられているデメリットの解消を検討する必要がある。

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© 2016 中小企業会計学会
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