中小企業会計研究
Online ISSN : 2435-8789
Print ISSN : 2189-650X
事業承継の発生と管理会計の導入
―栃木県信用保証協会および有限会社長岡生コンクリートへのインタビュー調査に基づく考察―
中島 洋行
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 2020 巻 6 号 p. 31-44

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抄録

 事業規模の拡大および組織の複雑化によって,中小企業においても財務会計だけではなく管理会計を新たに導入したり,既存の管理会計システムを見直したりする必要がある。しかし,日本管理会計学会スタディ・グループが2015 年に実施したアンケート調査の結果によれば,中小企業における管理会計の新規導入あるいは見直しが十分に行われているとは言い難い。中小企業にとって管理会計を新たに導入したり,既存の管理会計システムを見直したりすることは経営上の大きな転換点であり,このような経営改革は何らかのきっかけを契機として行われることが多い。そこで,本研究ではそのきっかけとして事業承継に注目する。事業承継の発生によって経営者が交代する時は,先代経営者の時代と比べて新しいことに取り組もうとする機運が高まる時期でもある。

 本研究では,海外の先行研究レビューに基づき,「中小企業における事業承継の発生は,管理会計の新規導入または見直しを図る契機となりうるのではないか」というリサーチクエスチョン(Research Question:RQ)を設定し,このRQ について検討するために,栃木県信用保証協会および有限会社長岡生コンクリートへのインタビュー調査を通じて,事業承継の発生と管理会計の導入および見直しとの関係について考察する。2 つのインタビュー調査結果より,事業承継の発生時に,管理会計の導入および見直しを促進する要因として,事業承継者が管理会計に関心があること,現経営者も管理会計の重要性を理解して導入を側面からサポートすること,さらに管理会計の導入を事業承継者と共に一緒に進められる人材が社内にいることの3 つの要因があり,これらの要因ができるだけ多く満たされることで,事業承継の発生が管理会計の新規導入または見直しを促進する契機になりうる可能性もより高まることが明らかになった。

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© 2020 中小企業会計学会
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