2024 年 20 巻 1 号 p. 73-89
文部科学省が実施する全国学力・学習状況調査の「保護者に対する調査」「経年変化分析調査」には,経年変化分析調査が教科ごとに独立に実施されているため,保護者に対する調査のデータを活かしきることができないという課題がある。本稿は,その改善策として提案されている全国学力・学習状況調査の悉皆調査のデータを組み合わせ,多次元項目反応モデルと推算値法を利用して受検者の学力を再推定するという方法の有効性を,シミュレーションを用いて検討した。
結論として,この手法は下位集団の平均や標準偏差,SESと学力の相関係数,回帰分析の係数について,ほぼ適切に母集団のパラメータを復元できることが明らかになった。教科間の相関係数を過大推定する傾向は見られたものの,その誤差はMLEやEAP,あるいは素点を利用した場合に比べれば小さい。