本研究の目的は,1) 全項目が開示されるテスト文化のもとで得点分布の経年比較を行う方法を提案すること,2) その実現可能性を検討すること,そして,3) 実際のデータを用いて適用例を示すことである.第一については,全国テストと自治体テストを組み合わせたデータ収集デザインを組み,テスト理論におけるリンキングの手法を用いることにより,得点分布の経年比較を行う方法を示した.第二については,テストデータの利用可能性,地域の協同のあり方,受検者特定の不必要性などについて検討を行った.第三については,平成18年度と平成21年度の中学校3年生国語テストの得点分布の経年比較を行った.その結果,平成18年度と平成21年度とで,どちらのテストにおいても得点分布にあまり変化はないが,もし変化があるとすれば「知識」よりも「活用」においてであることが見出された.さらに,データ収集デザインを拡張し,テスト数,版数,地域数を増やした場合などについても言及した.