日本文化人類学会研究大会発表要旨集
Online ISSN : 2189-7964
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日本文化人類学会第54回研究大会
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分科会3 世界と共に感じる能力―情動、想像力、記憶とエンスキルメントをめぐって―
正体不明な霊でも祓われる
現代日本における憑依からの治癒経験における、記憶、想像力、エンスキルメントの役割
*デ・アントーニ アンドレア
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p. C05-

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抄録

本発表は、現代日本における「憑き」や「憑依」を通して治癒した人々の経験に焦点を当てながら、精霊が発生する過程や精霊を祓うことによる治療過程を検討する。それにより、情動・感覚、身体化された記憶と想像力との相互関係がいかに治療の効果や治癒と関わるのかを分析する。まず、徳島県にある賢見神社で参与観察した民族誌的データに基づき、お祓いの受け手の治癒過程に注目しながら、「憑かれた」ということが、どのような相互行為や症状によって判断されるのかを明らかにする。このお祓い儀礼においては、ヒーラーである神主が「何かが受け手に憑いているか」、或いは「憑いているものは何か」などを判断することはない。そのため、儀礼実践によって発生する「フィーリング」と身体化された記憶から発動する想像力によって、受け手は憑依されていたと判断していて、そのことが治癒という結果につながっているといえる。更に、実践上で生じる特定の「フィーリング」を強化、或いは弱体化するエンスキルメントが「治癒した」とされる状態を保つ基盤となっていることを明らかにする。以上により、憑依を通した治癒経験を理解するためには、ヒーラー側に焦点をあてるのではなく、受け手に焦点を当てるような分析モデルの方が効果的であると論じる。

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