2013 年 11 巻 p. 114-124
東日本大震災では、約19,000人が津波によって犠牲となった。本稿では、この度の巨大津波襲来時において、過去の津波被災経験から語り継がれてきた“津波から命を守るための教訓”に従い、適切な避難行動はどの程度行われたのか、またそのような行動をとることが、本当に命の危険を回避することにつながったのかを、岩手県釜石市を対象に実施したアンケート調査結果から検証した。
まず、津波犠牲者の地震発生後の行動実態より、地震発生時に自宅に滞在していて、そのまま自宅で津波に流されて犠牲となった割合が最も高かった。次いで高い割合となったのが、地震発生時に滞在していた場所は異なるが、結果として避難の途中、または避難先で被災してしまっていたことが確認された。この結果を踏まえ、津波によって命の危険を感じるような経験をした住民の行動を分析した結果、地震発生直後に寄り道せずに避難した住民は、命の危険を感じるような経験をしている割合が低くなっていた。一方、津波襲来前の早いタイミングで避難したとしても、避難の途中でどこかに立ち寄ったり、十分に安全ではない場所に避難してしまったりした場合には、命の危険を感じるような経験をしている割合が高くなっていた。
以上の結果より、適切な避難行動をとることができなかった住民の存在が明らかとなり、また“想定外”と言われるこの度の巨大津波にあっても、過去の教訓に従い、適切な避難行動をとることができていれば、犠牲者の多くは生き延びることができたのではないかと推察される。