災害情報
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11 巻
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特集 3.11以後の防災を考える~『想定』というリスク情報とどう向き合うべきか~
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[論文]
  • 藤本 一雄, 能登 貴仁
    2013 年 11 巻 p. 32-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    住民による防災対策の実施を支援するための地震ハザードマップを作成する際に考慮すべき事項を示すことを目的として、既存の地震ハザードマップに掲載されている防災対策に関する情報を分析した。具体的には、全国の181自治体(市町村)が作成した地震ハザードマップに掲載されている防災対策に関する情報を、ISO31000のリスクマネジメントプロセスにおける5つのステップ(組織の状況の確定、リスクアセスメント、リスク対応、コミュニケーション及び協議、モニタリング及びレビュー)および流れ(コアプロセス)に沿って整理・集計した。

    その結果、住民の防災対策実施を支援する地震ハザードマップを作成する上で考慮すべき事項として、1) 各自治体が地震ハザードマップを作成した目的を示すとともに、目的に対応した記載内容・表現を採用すること、2) 各市町村で予想される震度・被害レベルに応じて必要となる防災対策を示すとともに、対策実施の優先順位に関する情報も併せて提供すること、3) 防災対策の実施を検討する際に、家族(内部ステークホルダ)や地域住民(外部ステークホルダ)との話し合い・相談を促すための工夫を取り入れること、4) 防災対策の実施状況を点検(チェック)するための工夫を取り入れること、5) リスクマネジメントプロセスの流れ(コアプロセス)を踏まえて、地震ハザードマップの掲載情報にアクセスする順序に配慮すること、を指摘した。

  • 谷口 綾子, 林 真一郎, 矢守 克也, 伊藤 英之, 菊池 輝, 西 真佐人, 小山内 信智, 藤井 聡
    2013 年 11 巻 p. 43-54
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、高知県四万十町興津小学校において、土砂災害避難行動誘発を目的とした授業プログラムを構築するとともに、その効果を分析することを目的としたものである。

    この授業では、(1)土砂災害の仕組みを3Dメガネ、砂防えん堤の模型で理解する、(2)地域の現状をフィールドワークと、危険マップなどで把握する、(3)土砂災害の被害軽減のための施設の限界について理解する、(4)土砂災害警戒情報の意義と運用例、限界を理解する、(5)避難意思決定の限界として正常化バイアス、集団同調バイアス、エキスパートエラー等の心理的バイアスの存在を理解する、(6)「葛藤」を経験するために、土砂災害クロスロードゲームを活用する、等の内容で構成されており、「施設や情報に依存しすぎず、施設や情報をかしこく使って、自分で考えて避難することが必要」ということを理解させることを目標とした。

    授業前後に実施したアンケート調査の定量的分析より,授業実施後に児童の土砂災害のリスク認知が高まり,災害情報による専門家依存傾向の増進・自主性の低減などの負の効果が統計的有意に低減したことが示された.さらに,土砂災害クロスロードゲームにおける児童の記述を定性的に分析した結果,自分だけでなく保護者のことを考慮する方向に配慮する範囲が拡がった児童がいたこと,自らの判断に葛藤したことが伺える児童がいたことが示された.

  • ―マスメディアと住民のインタラクションを中心に―
    李 旉昕, 近藤 誠司, 矢守 克也
    2013 年 11 巻 p. 55-67
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    災害の発生直後および復旧・復興期において、被災地間で報道の量や質に偏りが生じることによって、支援に格差が生じてしまう場合がある。このような問題に対して、これまでは、情報の「受け手」と「送り手」を峻別して、それぞれの側において独立に課題解決を図ろうとするアプローチがとられてきたが、問題点を十分に明確に位置づけることができなかった。そこで本研究では、台湾の「明星災区」(報道により注目されてスターのようになった被災地の意味)という社会現象に着目して、上述した閉塞状況を打開するための新たなアプローチを探索することにした。具体的には、(1) 2009年のモラコット台風で被災した小林村および近隣集落の事例、(2) 1999年集集大地震で被災し、その後も頻繁に土砂災害で被災した古坑郷華山村の事例を対象にして、現地での聞き取り調査をおこなった。その結果、いずれのケースにおいても、被災した住民自らが能動的にマスメディアに働きかけることで、外部からの支援を呼び寄せるなど「明星災区」の諸課題を解決したケースが見出された。ここからは、メディアで報道されることを前提にして、様々な関係当事者が相互にインタラクションしながら共に事態の改善を目指すことが、被災した住民にとって、より理想的なアプローチになりうることがわかった。台湾の事例から、ポスト3.11の災害報道の充実化に向けて、マスメディアなどの事態の外在者を関係当事者の一員として位置づけ直すことの必要性を検討した。

  • 孫 英英, 矢守 克也, 谷澤 亮也, 近藤 誠司
    2013 年 11 巻 p. 68-80
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災の発生によって、南海トラフの巨大地震・津波による被害が予想される地域でも、従前の津波防災対策の効果性に大きな疑問符が付されることになった。大震災のインパクトは主に3つの観点から整理できる。第1は、津波避難に関わる個別の課題が具体的に浮き彫りになったことである。第2は、大震災後、国や自治体が津波に関する「想定」を見直したことである。第3は、これらの地域で津波警報等が発令されたにもかかわらず、避難率は必ずしも高くなかったことである。本研究は、こうした地域の一つで筆者らが大震災以前から津波防災の実践に関与してきた興津地区において、大震災によって示唆された課題について上記の3つの側面に注目して検討したものである。同地区で行われた質問紙調査の結果によると、避難場所などハード施設の整備、および、学校と地域社会の連携による津波対策が、「県下随一の防災先進地」と称されるほど進展していた。しかし一方で、既存の防災施設への過度な依存、「津波てんでんこ」の原則の不徹底、「想定」の見直しに伴う不安感など、いくつもの課題が依存残存することが分かった。これらの課題を解消するためには、住民一人ひとりの避難を「個別具体的に」検討する必要性があり、そのための試みとして、「個別訓練タイムトライアル」の手法を提案した。

  • 牛山 素行, 横幕 早季
    2013 年 11 巻 p. 81-89
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    2004年から2011年までの主要豪雨災害にともなう死者・行方不明者514人について,報道記事や現地調査結果をもとに,遭難場所,遭難状況などをデータベース化し,犠牲者の特徴を解析した.原因外力別に見ると,最多は「土砂」191人(37.2%)で.以下「洪水」131人(25.5%), 「河川」105人(20.4%)と続き,これらで83.1%に達する.遭難場所を大別すると,「屋外」294人(57.2%), 「屋内」217人(42.2%)となった.原因外力別では「土砂」のみが「屋内」が多く,他の外力では「屋外」が多数派を構成し,外力別に明瞭な相違がある.遭難位置を3次メッシュ(1kmメッシュ)単位で解析したところ,犠牲者の多く(464人,90.3%)は「非市街地」メッシュ内で遭難しており,また,遭難位置の人口年代構成は,高齢者率が高いメッシュが多い(369人,83.1%)ことが確認された.ただし,都市部においても市街地近傍での大河川の破堤などの激しい現象が発生すればまとまった犠牲者が生じる可能性も示唆された.地形的には,「山地・丘陵地」(280人,58.5%),「低地」(167人,34.9%)での犠牲者が多く,地形と豪雨災害の関係の一般則があらためて確認された.今回の集計はあくまでも最近8年間に発生した豪雨災害事例のみを対象としたものであり,この間に発生していない形態の災害が存在する可能性があることには注意が必要である.

  • 地引 泰人, 大原 美保, 関谷 直也, 田中 淳
    2013 年 11 巻 p. 90-100
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、住民調査結果をもとに、「東日本大震災が発生した当日から1ヶ月の間に、被災した仙台市民が病院や診療所についてどのような支障に直面したのかを、経時的に明らかにすること」、である。

    住民調査の方法は、地震が発生した2011年3月11日の震災後も仙台市内で生活し、かつ震災時に津波の被害を受けていない宮城県仙台市内在住の20歳から80歳の男女個人を対象として、Webアンケート方式で行った。

    調査の結果、震災発生後から時間が経過するにつれて、病院や診療所についての情報ニーズはあるものの入手できていない割合は漸減傾向にあった。震災前から通院している人々の方が「通院支障」に直面する割合が高く、その意味で脆弱性があると考えられる。「健康悪化の不安」は時期が経過するにしたがって増加しているものの、「通院支障」とは関連性がなく、むしろ原子力発電所の事故への不安との関連性があった。

    開いている病院・診療所の情報の普及が進むと「通院支障」を解消する方向に向かうことが示唆され、情報伝達の重要性が確認された。「通院支障」の項目として、「どこに行けばよいのかわからない」被災者が多かったが、彼らが地域の災害拠点病院に集中することは避ける必要がある。そのために、単に開いている病院・診療所の情報を伝達するのではなく、症状などに応じて向かうべき適切な病院・診療所がわかるような情報を発信することが重要であると考えられる。

  • ~伊勢市辻久留地区におけるアンケート調査を通じて~
    竹之内 健介, 島田 真吾, 河田 慈人, 中西 千尋, 矢守 克也
    2013 年 11 巻 p. 101-113
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    気象情報の作成者と利用者の情報に対する認識の距離を近づける試みとして、地域気象情報を提案する。地域気象情報は、多様化・複雑化する気象情報を地域で利用できる身近な情報として共有し、気象情報から事前に災害リアリティを醸成する試みである。現在、三重県中部に位置する伊勢市宮川沿岸一部地域を対象に、地域気象情報の取組を実施している。本取組では、地域防災と学校防災との連携、生徒と住民との連携を図りながら、地域全体での地域気象情報の共有を目指している。本対象地域内に位置する辻久留地区において、取組の予備調査として、地域防災の現状確認と、地域気象情報の有効性を確認するためのアンケート調査を実施した。このアンケート調査結果から、過去に水害に遭遇している当該地域においても、2011年台風12号の際の災害認知は遅れていたことが確認され、事前に災害への認識は十分に形成されていなかったことが確認された。また、この課題に対し、4つのパターンの地域気象情報を利用した場合に、従来型の気象情報と比較して、災害時の行動にどのような違いが生じるか確認した。結果、すべてのパターンで避難行動実施の向上が確認され、地域気象情報を地域で共有することにより、災害に対する事前行動を促し、待ちの状態や避難への抵抗感を抑制できる可能性があること確認した。今後、関係する実践共同体との連携を強化し、地域気象情報の共有と利用を図っていく。

  • ~岩手県釜石市を対象とした東日本大震災における津波避難実態調査から~
    金井 昌信, 片田 敏孝
    2013 年 11 巻 p. 114-124
    発行日: 2013年
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

    東日本大震災では、約19,000人が津波によって犠牲となった。本稿では、この度の巨大津波襲来時において、過去の津波被災経験から語り継がれてきた“津波から命を守るための教訓”に従い、適切な避難行動はどの程度行われたのか、またそのような行動をとることが、本当に命の危険を回避することにつながったのかを、岩手県釜石市を対象に実施したアンケート調査結果から検証した。

    まず、津波犠牲者の地震発生後の行動実態より、地震発生時に自宅に滞在していて、そのまま自宅で津波に流されて犠牲となった割合が最も高かった。次いで高い割合となったのが、地震発生時に滞在していた場所は異なるが、結果として避難の途中、または避難先で被災してしまっていたことが確認された。この結果を踏まえ、津波によって命の危険を感じるような経験をした住民の行動を分析した結果、地震発生直後に寄り道せずに避難した住民は、命の危険を感じるような経験をしている割合が低くなっていた。一方、津波襲来前の早いタイミングで避難したとしても、避難の途中でどこかに立ち寄ったり、十分に安全ではない場所に避難してしまったりした場合には、命の危険を感じるような経験をしている割合が高くなっていた。

    以上の結果より、適切な避難行動をとることができなかった住民の存在が明らかとなり、また“想定外”と言われるこの度の巨大津波にあっても、過去の教訓に従い、適切な避難行動をとることができていれば、犠牲者の多くは生き延びることができたのではないかと推察される。

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