災害情報
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[論文]
東日本大震災の初動報道に関する当事者分析:キャスター自身による分析・調査と実践的考察
横尾 泰輔矢守 克也
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2017 年 15 巻 2 号 p. 149-159

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抄録

東日本大震災で、日本放送協会(NHK)は、巨大地震の発生直後に緊急災害報道を開始し、第1著者は、全国放送のキャスターとして、津波情報の伝達や避難の呼びかけを行った。しかし、多数の住民が、津波到達まで時間的猶予があったにもかかわらず、適切な避難をせずに死亡した。これは、メディア(放送)による情報伝達はできていても、それが住民の避難行動を誘発・促進するのに十分効果のあるものではなかったことを示唆している。

本研究では、東日本大震災の初動報道に対応したキャスター当事者の視座から、放送内容および各局面におけるキャスターを取り巻く状況・心理等を自己分析するとともに、放送を視聴・聴取していた住民が、情報をどのように受けとめ、それに基づきどう行動していたかについての聞き取り調査を実施した。その結果、情報の送り手と受け手の間にある認識の相違が明確となった。

その上で、住民の避難行動の誘発・促進に資する緊急災害報道の手法として、次の5つの項目を導出した。①インパクトのある表現(強い口調・キーフレーズ)、②発表情報・数値への解釈の付加、③教訓(リアルな事例)を盛り込んだ呼びかけ、④避難行動の段階的アプローチ、⑤津波映像の具体的実況描写と普遍化、である。

以上5つの手法を取り入れた緊急災害報道モデルを新たに構築し、訓練等を通じて実践的な考察を試みた。

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© 2017 日本災害情報学会
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