本研究は、災害に対する住民の災害知識構造が、災害情報の入手や避難などの対応行動に対してどのような影響を与えているのかを検討したものである。災害時には、人は必ずしも迅速な避難を行わないことはすでに指摘され、災害情報の制度的・技術的向上や防災教育によって避難を促す取り組みが続けられてきた。しかし、これまでの災害情報や防災教育は災害に関する断片化された情報を提供してきており、ある情報を得たときに、今後どのような事態が発生しうるのかを予測できるような構造化された知識が醸成されていないことが指摘されている。
そこで本研究では、平成27年関東・東北豪雨において水害を発生させた鬼怒川流域の住民を対象とした質問紙調査を実施し、災害知識構造が災害情報の入手や対応行動に与える影響を明らかにすることをと試みた。調査はインターネット調査によって実施し、茨城県常総市周辺の8市町に居住する調査会社のモニター300名を対象とした。
結果として、災害知識構造をもつ調査協力者ほど早期の災害情報入手や翌日に早起きしようと思うなどのコストが低い対応行動を意図し、実際に災害情報を早期に入手していることが明らかとなった。ただし、本調査では鬼怒川から離れた場所に住む住民も対象に含めたため、実際に避難行動をとった割合については、調査協力者全体の7.7%と少数にとどまった。