災害情報
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学校教員の主体性形成を目指した防災教育―メキシコ・シワタネホでのアクションリサーチ―
中野 元太矢守 克也
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2018 年 16 巻 2 号 p. 235-245

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抄録

防災教育の多くは、教育を、教育する者とされる者との間に存在する防災知識・技術の「格差」の縮減だと見なす「伝達パラダイム」に立脚してきた。しかし、教育する者がされる者に何かを「教える」という図式は、前者に「教える」という形で行為の「主体性(能動性)」を付与し、後者に「客体性(受動性)」を付与する結果、教育される者の主体性喪失を招いてきた。本研究は、教育される者の主体性形成を重視した防災教育(「主体性パラダイム」確立)に資する理論的枠組として「ダブル・バインド」理論を導入し、メキシコ・シワタネホで学校教員の主体性形成を重視したアクションリサーチを行った。シワタネホでは、従前から、防災の専門家が「教員自身が防災に取り組む」ことを明示的メッセージ(〈言語の水準〉)として指導してきた。しかし、専門家がそのように「指導する」ことを通して、「専門家が防災に取り組む」という姿勢や構図を非明示的メッセージ(〈行為の水準〉)として、同時に伝えてきたと言える。こうして生じる両水準の間の矛盾・葛藤、すなわち、ダブル・バインド状態からの脱却を意図した津波防災教育を現地の小学校2 校で実践した。その結果、専門家が教員に〈言語の水準〉で要求する教育内容を、教員の側が〈行為の水準〉で先どりして実践できるように筆者らが介入する実践を通して、ダブル・バインド状態が解消され教員の主体性形成につながることが示唆された。

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© 2018 日本災害情報学会
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