2020 年 18 巻 1 号 p. 1-11
本研究は、現在バイアスの影響を受けている首都圏の居住者が、災害復興に関して一般とは異なる特徴的な考え方を有しているのか、という点について検証を試みたものである。現在バイアスとは、「瞬時割引率が将来に向かうほど小さくなるような時間割引関数」(盛本,2015:53)のことを指し、計画性の低さ、状況への対応能力の低さ、刹那性の高さなどの特徴を示すとされ、災害復興をめぐる合意形成の際には、それらの特徴から過度に迅速性を希求する可能性がすでに指摘されている。本研究では、この点について、首都圏の居住者400名を対象としたwebアンケート調査を実施し、発生が予想されている首都直下型地震に対して、現在バイアス群が、コントロール群にくらべて、より迅速性を希求するのかという点について調査を行った。その結果、「復興に対する迅速性の希求」で両群には有意な差がみられた。現在バイアス群の回答は総じて、近年に急速な広がりがみられる自己責任論的なものの見方であり、それに対する自己防衛策として、防災対策の実施や現在の被災者の生活再建を優先する傾向を示していると思われ、これは、ある意味でリスク社会などとも呼ばれる、現代社会の捉え方に対する方策の先鋭化した姿として表れていることが明らかとなった。