災害情報
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18 巻, 1 号
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[論文]
  • ~首都圏居住者の首都直下型地震に対する災害復興観調査を事例として~
    小林 秀行, 田中 淳
    2020 年 18 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、現在バイアスの影響を受けている首都圏の居住者が、災害復興に関して一般とは異なる特徴的な考え方を有しているのか、という点について検証を試みたものである。現在バイアスとは、「瞬時割引率が将来に向かうほど小さくなるような時間割引関数」(盛本,2015:53)のことを指し、計画性の低さ、状況への対応能力の低さ、刹那性の高さなどの特徴を示すとされ、災害復興をめぐる合意形成の際には、それらの特徴から過度に迅速性を希求する可能性がすでに指摘されている。本研究では、この点について、首都圏の居住者400名を対象としたwebアンケート調査を実施し、発生が予想されている首都直下型地震に対して、現在バイアス群が、コントロール群にくらべて、より迅速性を希求するのかという点について調査を行った。その結果、「復興に対する迅速性の希求」で両群には有意な差がみられた。現在バイアス群の回答は総じて、近年に急速な広がりがみられる自己責任論的なものの見方であり、それに対する自己防衛策として、防災対策の実施や現在の被災者の生活再建を優先する傾向を示していると思われ、これは、ある意味でリスク社会などとも呼ばれる、現代社会の捉え方に対する方策の先鋭化した姿として表れていることが明らかとなった。

  • ―南海トラフ地震臨時情報のあり方の検討に向けて―
    大谷 竜, 橋本 徹夫, 兵藤 守
    2020 年 18 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    現在、2017年に導入された「南海トラフ地震臨時情報」が発表された際の防災対応について、自治体や企業等で検討が行われている。しかし、「ゆっくりすべり」ケースが発生した場合、そもそもどういった異常現象が発生し、どのように評価され、どんな情報が発信されるかが分からないため、防災対応について具体的な検討が進んでいないことが懸念される。そこでこの課題に対する知見を得るため、大規模地震発生監視のために、東海地域に設置された気象庁の三ヶ日観測点で、2003年4月8日夜に発生した、大地震発生との関連が疑われるゆっくりすべりケースに似た特異な歪変化に着目し、どのような解析が行われ、いつどんな情報が何を根拠に発表されたかの調査を行い、「ゆっくりすべり」ケースの検討の参考事例としてまとめた。本事例では、特異な現象が観測されてからプレスリップ(前兆すべり)の可能性が否定できた解析を得るまでに、5~6時間程度を要していたことが分かった。このことから、原因解明に時間を要する現象が発生した際には、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」の情報が何度か発表される可能性があり、評価の定まらない中での情報発表のあり方について検討する必要性が示唆された。

  • 千々和 詩織, 矢守 克也
    2020 年 18 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、長期的な視点に立って学校防災教育を実施し、また検証することの重要性を指摘したものである。近年、その重要性が強調されてやまない防災教育ではあるが、その多くが、期間にして1週間未満で、かつ、単発(ワンショット)の短期的な実践にとどまっている。加えて、防災教育の目的として掲げられることが多い「児童・生徒が自分で自分の命を守る力の育成」という観点から教育の効果を直接的に検証することが困難であることを理由に、短期的な教育実践の(前)後に、教育した内容に関する理解度や一般的な意味での防災意識をチェックすることをもって教育効果の検証としている場合が多い。しかし、こうした検証方法には疑問も残る。これに対して、本研究では、同じ小学校(地域社会)における防災教育に約10年間にわたって継続的に関与したアクションリサーチをもとに、地域社会のハード施設整備に与える影響、地域社会のソフト対策に与える影響、および、卒業生や元教員の動向に与える影響を長期間追跡・評価することが、教育成果の検証方法として活用できるとの提起を行なった。

  • 栗林 大輔, 大原 美保, 小薮 剛史, 澤野 久弥
    2020 年 18 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    近年洪水被害が毎年のように頻発しており、特に逃げ遅れによる人的被害が数多く発生している。本研究では、住民や防災関係者による効果的・効率的な防災・減災活動に資することを目的にして、近年進展が著しい仮想現実(Virtual Reality: VR)技術を用いて、イメージ映像にて洪水時の状況を疑似体験できる「洪水疑似体験アプリ」を開発した。そして、住民が本アプリにより洪水を疑似体験することで、洪水災害に対する意識や減災行動意欲に変化が生じるかをアンケートにより検証した。その結果、洪水被害を経験していない被験者ほど、本アプリによる洪水疑似体験において洪水が実際に来るように、また洪水に対する怖さをより感じることが分かった。あわせて、洪水災害を経験していない被験者ほど、本アプリによる洪水疑似体験後に洪水災害への心配度合いが増加した。さらに、洪水疑似体験後に洪水への心配度合いが増加したグループの方が、洪水ハザードマップの閲覧意向が高くなったことが分かった。これらにより、VR技術を用いた洪水疑似体験は、特に洪水被害経験がない人に対して洪水への意識啓発に有効であり、効果的な減災行動意欲向上に大いに貢献できる可能性が示された。

  • ―宝塚市川面地区における実践を通じて―
    竹之内 健介, 矢守 克也, 千葉 龍一, 松田 哲裕, 泉谷 依那
    2020 年 18 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    近年の風水害において、住民の災害対応をどのように促進するかが大きな課題となっている。一方で、住民の災害対応を支援する災害情報が十分に利用されていないのも事実である。本研究では、地域における災害対応を促進するために、「いつ行動するか」を軸として、住民自らが地域で災害対応を行うタイミングを議論する「防災スイッチ」の構築にかかる実践的な取組を、2018年に兵庫県宝塚市川面地区自主防災会との協働により実施した。

    防災スイッチ構築のための手法として、計5回のWSを実施するとともに、併せて日常的に利用可能なポータルサイトを活用した。その結果、実際に住民が地域の状況・災害情報・対応行動などを結びつけ、災害対応のタイミングと行動内容を検討することにより、活動開始と避難開始の2種類の防災スイッチを構築した。また構築された防災スイッチの内容について分析を行い、その判断基準の特徴を整理した。今後の課題として、地域の状況と災害情報を結びつける際の専門家や行政の支援の必要性や、実際に利用していく上で、他の住民への普及啓発の方法などが確認された。

  • ーリグレットマップ作製の試みー
    大西 正光, 矢守 克也, 大門 大朗, 柳澤 航平
    2020 年 18 巻 1 号 p. 59-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    近年、「津波てんでんこ」は、津波避難の原則として、その普及と徹底が全国的に推し進められている。しかし、「津波てんでんこ」は、「助けられたはずなのに、助けに行けなかった」、あるいは「逃げる(逃がす)べきだったのに、助けに行ってしまった(助けに行かせてしまった)」といった心理的葛藤をもたらしうる。本研究では、こうした感情を「リグレット(後悔)感情」と呼び、リグレットの軽減に資する課題分析や避難計画を検討すべきことを主張する。その上で、どのような社会的条件の下で、リグレットに直面する人の数は多くなるのか、またどのように解消しうるのかなど、多様で個別的な各現場で現実的な避難計画を検討する作業を支援する「リグレットマップ」を提案し、その作製方法を示す。さらに、適用事例を通じて、「リグレットマップ」の活用により示唆される知見を示す。

  • ~カーナビを通じた情報提供の実証実験より~
    宇田川 真之, 紀伊 智顕, 豊田 健志
    2020 年 18 巻 1 号 p. 71-81
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    車両での移動者の安全性向上のために、防災情報提供の改善を目指して実証実験を行った。情報提供端末としての適性を検討してカーナビゲーションシステムを採用し、現状の気象情報に加え、新たに避難指示対象発令エリアの地図情報などを提供した。集中豪雨および地震・津波を対象とし、41名の被験者に車両走行中の現地で実験を行った。大雨の実証実験では、避難指示対象エリアの視聴によって避災行動が促される結果が得られた。地震・津波の実験でも、津波警報や避難情報、浸水想定区域の地図情報などによって避災行動が促されていた。ただし、避災行動時の自動車の利用意向には被験者によって差異がみられ、汎用的な行動指針を提示する必要性が示唆された。さらにアンケート結果から、サービスの実用化において一層の改善の望まれる事項として、各社から提供される情報仕様の標準化、降車後の徒歩避難時における携帯端末サービスと連携した情報提供などが抽出された。

  • ―教育委員会との連携強化を目指して―
    五島 朋子, 矢崎 良明, 石辺 岳男
    2020 年 18 巻 1 号 p. 83-93
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    災害時、教員は児童生徒を誘導する立場にあり、教員の防災に関する知識不足や防災マニュアルの周知不徹底といった人為的要因で子どもたちの命が奪われることは絶対にあってはならない。本研究では、学校現場の防災対策事情を把握するために公立小中学校ならびに市区町村教育委員会を対象に「学校防災アンケート」を実施した。その結果、①自校の防災マニュアルに不備がないか、マニュアルが教職員全体へ周知されていないかもしれない等の懸念を抱く学校が多いこと、②教育委員会と所轄学校との相互的な働きかけ合いが不足している、といった問題が浮き彫りとなり、我々はこれらが防災マニュアルの管理・運営や防災教育に対する障壁になっていると結論付けた。学校防災マニュアルの管理・運営を持続可能で効果的なものにしていくためには、学校と他関係機関(教育委員会等)との連携強化を図り、組織間の相互的な働きかけ合いを持続させる必要がある。さらに、防災管理及び防災教育に関する研究が、学校現場や教育委員会の防災教育に十分役立たれているかどうかについても疑問がある。これらの課題解決に向けて、今後、効果的・効率的に防災マニュアルを管理・運営するシステム、ならびに組織的な教員養成、教育委員会内におけるアドバイザー的人材育成の制度構築が必須である。

  • 安本 真也, 石濱 陵, 森野 周, 関谷 直也
    2020 年 18 巻 1 号 p. 95-105
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    気象庁は平成29年11月1日から「南海トラフ地震に関連する情報」の運用を開始した。ただし、この運用が開始されたものの、地方自治体や事業者、住民がこの情報をどのように活用するかが定められていなかった。そこで、南海トラフ地震で大きな被害を受ける可能性の高い、静岡県と高知県の住民を対象として、「南海トラフ地震に関連する情報」が発出された時に、どのような反応を示すのかを明らかにするため、アンケート調査を実施した。

    その結果、第一に「南海トラフ地震に関連する情報」は約半数の人が知っていたが、その情報を元にどのような判断をすればよいのか難しいと考えられている。第二に「南海トラフ地震に関連する情報(臨時)」が発表された場合、その情報だけではなく、気象庁の呼びかけか、地方自治体がどのような情報を出すかによって避難の意思は大きく変化する。さらに、避難生活や自宅から離れないで済むか、という心理的コストや車などの家財道具を守れるか、といった経済的なコストが避難の意思に対してマイナスに働いている。一方で、過去の南海トラフで発生した地震に関する知識は避難への意思には結びついていないことが明らかになった。

  • 秦 康範, 前田 真孝
    2020 年 18 巻 1 号 p. 107-114
    発行日: 2020年
    公開日: 2022/07/20
    ジャーナル フリー

    我が国は2008年をピークに人口減少局面に入っており、長期的な人口減少社会を迎えている。本研究では、洪水による浸水リスクに着目し、全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内外の人口および世帯数を算出し、1995年以降の推移とその特徴について考察することを目的とする。

    対象地域は全国の都道府県で、使用するデータは500mメッシュの国勢調査(1995年~2015年の5年分)と国土数値情報浸水想定区域データである。地理情報システムを用いた解析の結果、浸水想定区域内人口および世帯数は、1995年以降一貫して増加しており、区域内人口は1995年(33,897,404人)から2015年(35,391,931人)までに1,494,527人増加し、区域内世帯数は1995年(12,165,187世帯)から2015年(15,225,006世帯)までに3,059,819世帯増加していることが示された。都道府県別の浸水想定区域内の人口および世帯数は、1995年を基準とすると、2015年において浸水想定区域内人口は30都道府県が、浸水想定区域内世帯数は47都道府県が、増加していることが示された。区域内人口が減少している地域を含め区域内世帯数が大きく増加しているのは、浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるためと考えられる。

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