2020 年 18 巻 1 号 p. 13-23
現在、2017年に導入された「南海トラフ地震臨時情報」が発表された際の防災対応について、自治体や企業等で検討が行われている。しかし、「ゆっくりすべり」ケースが発生した場合、そもそもどういった異常現象が発生し、どのように評価され、どんな情報が発信されるかが分からないため、防災対応について具体的な検討が進んでいないことが懸念される。そこでこの課題に対する知見を得るため、大規模地震発生監視のために、東海地域に設置された気象庁の三ヶ日観測点で、2003年4月8日夜に発生した、大地震発生との関連が疑われるゆっくりすべりケースに似た特異な歪変化に着目し、どのような解析が行われ、いつどんな情報が何を根拠に発表されたかの調査を行い、「ゆっくりすべり」ケースの検討の参考事例としてまとめた。本事例では、特異な現象が観測されてからプレスリップ(前兆すべり)の可能性が否定できた解析を得るまでに、5~6時間程度を要していたことが分かった。このことから、原因解明に時間を要する現象が発生した際には、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」の情報が何度か発表される可能性があり、評価の定まらない中での情報発表のあり方について検討する必要性が示唆された。