災害情報
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[論文]
遠地津波に対する行政と住民の対応に関わる現状と課題
片田 敏孝村澤 直樹
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2009 年 7 巻 p. 94-103

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抄録

近年の我が国の津波防災を概観すると、大きな地震の揺れを伴う近地津波を念頭においた対策が一般的であり、揺れを伴わず広い範囲に津波が襲来する遠地津波を想定した津波対策は十分とは言えないのが現状である。この状況の中、2006年11月の千島列島の地震に伴い発表された津波警報に対する対応をみると、遠地津波であるが故の課題が散見された。行政対応をみると、津波警報未経験地域において事前の津波防災対策が不十分であったことや、避難勧告指示の発令基準の規定などの事前の津波防災対策の有無が住民への避難勧告指示の発令タイミングに影響し、その発令状況が住民の情報取得や避難開始タイミングに大きな影響を及ぼすことがわかった。また住民対応では、住民の避難率が津波常襲地域で低く津波警報未経験地域で高かったこと、住民の避難率が低調だった要因が地震の揺れの大きさや津波情報の空振り経験の有無にあること、さらに一度の津波情報の空振りだけで避難率が著しく低下することがわかった。本稿では、これらの課題から、遠地津波の特徴を踏まえて、これまで津波対応が不十分であった地域の津波防災対策を推進すること、行政における事前の津波防災対策を推進すること、さらに揺れを伴わないが故に近地津波よりもさらに高度な住民の津波情報リテラシーの向上が必要不可欠であることを指摘した。

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© 2009 日本災害情報学会
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