抄録
本研究ではティツィアーノ作『ウルビーノのヴィーナス』の主題や作画意図を,先行研究の文献だけでなく原寸大の分析図を実際に作成して考察した。その結果,画家ティツィアーノは画面空間におけるインテリア構成の演出を工夫し,ヴィーナスに託した現実の女性(ヌード)の美を際だたせている事実が浮上した。本論では,この演出は2つの異なった主題解釈を生む決定的要因であると同時に,画家ティツィアーノと注文主グイドバルド・デッラ・ローヴェレそれぞれの視点から見た絵画の地平の違いであったと推論する。つまり,ティツィアーノの地平には,裸体画や風俗画の先駆けとなる「新しいジャンルの絵画」が拓かれ,注文主グイドバルドの地平には,「鑑賞画」や「結婚画」という既存ジャンルの絵画が拓かれていると考えられるのである。このように複数の視点に対応する新たな地平を拓くことにこそ,『ウルビーノのヴィーナス』の最も重要な作画意図があったと結論する。