抄録
カナダ人アニメーション作家フレデリック・バックによる,一脚の椅子をめぐる作品「CRAC!」を対象に,その作中の椅子(ロッキングチェア)が持つ意味を読み解いた。
前半では,作風や環境思想,作品の背景となるケベック文化とその特殊性について考察した。それを受けて作中椅子の歴史的,造形的位置づけを行い,その意匠がケベック文化の特殊性を示す事を明らかにした。
後半では,ストーリーの分析を行った。椅子の一生における時代の変化,度重なる危機の克服,椅子を取り巻く人々や行為の多様性を考察し,それらが作中の椅子に豊かな意味をもたらしている事を明らかにした。
以上,多くのせめぎ合いの中でアイデンティティを築いてきたケベック文化と,時代の変化や危機を乗り越える中で新たな意味を獲得していく椅子の存在が重なる。自然素材と手仕事による環境が持つ,周囲の人々との多様かつ親密な関わりを可能にする性質が重要な役割を担っていた。