2025 年 81 巻 1 号 p. 58-63
日本固有の伝統芸能で歌舞劇である能楽とその歌唱である謡は数百年前に成立し,複数の役と流儀に分かれて口頭を中心に伝承されてきた。謡は相対音高かつ音高幅の大きなビブラートで歌唱され,和音はない。謡の音階はヨワ吟とツヨ吟に大別され,特にヨワ吟は西洋の音階で近似された例もある。また各流儀では謡の独自性を追求し,流儀間の交流は少なかったと考えられる。本論文では,ヨワ吟の謡からビブラートを考慮して音階を推定する方法を提案する。その手法を用いて,シテ方全五流儀の能楽師2名ずつから収録した同一曲のデータを分析した。提案手法は0.12程度の誤り率であり,西洋音楽の半音,全音程度の差異を明らかにできた。その結果,音階に関する流儀間の共通点と相違点を客観的に特定できた。