逃げる気になる防災アナウンスの解明を目指し,プロと一般人のElectroglottography (EGG)・音響的評価及び心理評価実験を行った。プロと一般人はどちらも高さ,話速,ラウドネスの変化が見られ,特にプロは声帯振動における声門開放時間率を示すOpen Quotient (OQ)の変化が大きかった。また,音声の聴覚印象から「強さ」因子と「快さ」因子が見出された。一般人はプロに比べると聴覚印象的にも変化が小さく,また表現が偏っていた。更に重回帰分析を行った結果,「逃げる気になる」には「強さ」因子と「快さ」因子の双方が関係していた。今後,これらをもとに,一般人に向けた逃げる気になる防災放送のトレーニングシステムの開発を進めることが期待される。
日本固有の伝統芸能で歌舞劇である能楽とその歌唱である謡は数百年前に成立し,複数の役と流儀に分かれて口頭を中心に伝承されてきた。謡は相対音高かつ音高幅の大きなビブラートで歌唱され,和音はない。謡の音階はヨワ吟とツヨ吟に大別され,特にヨワ吟は西洋の音階で近似された例もある。また各流儀では謡の独自性を追求し,流儀間の交流は少なかったと考えられる。本論文では,ヨワ吟の謡からビブラートを考慮して音階を推定する方法を提案する。その手法を用いて,シテ方全五流儀の能楽師2名ずつから収録した同一曲のデータを分析した。提案手法は0.12程度の誤り率であり,西洋音楽の半音,全音程度の差異を明らかにできた。その結果,音階に関する流儀間の共通点と相違点を客観的に特定できた。
著者らは現在ボコーダで音響特徴量を操作することにより,平静音声から嫌悪感情音声を生成することを研究の目標に掲げている。この手法を用いることでテキスト音声合成や,声質変換後の音声への後処理として特徴量を付与することで,嫌悪音声を表現できるようになる。そこで本研究では複数名話者によりコーパス文を読み上げた平静音声と嫌悪演技音声について,音響特徴量に基づく解析・比較を行った。その結果一部話者について基本周波数の低下と,全話者に共通して日本語五母音の第1,第2フォルマントにより表現される5角形の面積の減少が確認された。
発話速度(話速)は音声の聞き取り易さに影響を及ぼす主要な要因であるが,これまで日本語での日常会話について大規模な調査がなされていない。そこで本研究では,国立国語研究所「日本語日常会話コーパス」(CEJC)を用いて,日常会話音声の話速の分析を行った。その結果,日常会話の平均的な話速は,テレビニュースの話速よりもやや遅い約8拍/秒であることが明らかとなった。性別・年代及び会話形式別に分析すると,女性よりも男性の話速が速く,また会議よりも雑談での話速が速かった。一方,話者の年代の効果は雑談にのみ見られ,20代に比べて60代以上の話速が遅かった。ただし,用談と会議では,そのような傾向は見られなかった。