手話学研究
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原著論文
日本手話における等位接続の特性 (1)
等位接続の同時性における非対称分析
浅田 裕子
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2019 年 28 巻 1 号 p. 20-30

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抄録

「太郎と花子が結婚した。」のような等位接続文は、並列に接続された句(「太郎」・「花子」)は同じ主題役割を持ち、またそれらを入れ替えても一方の文が真であるときに他方も真になる(「花子と太郎が結婚した。」もまた真になる。)という意味的対称性をもつ。また一方で、これらの句は、どちらか一方を先に順序付けて音韻化しなければならないという音韻的非対称性をもつ。この意味と音韻の不整合という理論的問題に対し、音声言語を中心とする従来研究において、生成文法の枠組み (Chomsky 2015) で提示されている等位構造の統語分析には、大きく分けて二つの立場がある。等位構造で並列につながれている句(等位句)が統語的に同じ高さの位置にあると考える対称分析と、異なる高さにあると考える非対称分析である (Progovac 1998 を参照)。ここで、意味と音韻の不整合という問題の検証のため、二つ以上の調音器官をもつ手話言語は理想的な言語といえる。なぜなら、音声言語のように要素を順序付けて音韻化しなければならないという制約が必ずしも働かないからである。 本稿では、日本手話の等位接続の音韻化において、物理的には可能であっても、等位構造の二つの等位句を同時に調音することが不可能であるという観察事実を示す。これは、等位構造の非対称分析 (Den Dikken 2006, Mitrovič & Sauerland 2014) が妥当であることを示唆している。

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© 2019 日本手話学会
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